十八話 理解する元勇者
急ぎ足で元来た道を引き返す蒼佑達一行である、今は蒼佑が御者をして馬車を走らせている。
一晩明けたが彼は未だ馬車を止めない。
彼から感じられる圧にロックらは何も言えず、ただ馬車に揺られていた。
あれだけ蒼佑を好いていたアシュリーが本当に彼ではない男に好意を抱いたのかと、そう疑っていた。
しかしあまりにも暗い雰囲気であった蒼佑を見るにそれは疑いようもない事実なのだと思う他なかった。
「ソウスケ、いい加減休め」
「大丈夫だ、ほっといてくれ」
一晩休むことなく徹夜で場所を走らせ続けた蒼佑を心配したロックがそう言うが。蒼佑は止まらずそう返した。しかし彼がそれでは皆落ち着かないままだ。特にメリーナはかなり居心地が悪いだろう。
「ざけんな、何があったか知らねぇがそれで俺らが納得するわけねぇだろ」
「……」
続けてロックも返したがそれでも蒼佑は止まらない。何も言わず馬を走らせる。
どうにもならない様子に焦れったくなってロックはイライラしている。
「用を足すから止めろ」
彼がそう言うと さすがに馬車を止めない訳にはいかず、蒼佑はそれに従った。
馬車が止まるとロックは御者台に座る彼の元に行ってその胸ぐらを掴んで引きずり下ろす。
「何するんだ、ロック」
「いつまでそうやってるつもりだよ馬鹿野郎」
まるで能面を被ったような表情をした蒼佑に痺れを切らしたロックが苛立ちをぶつける。
一晩経っても暗いままの蒼佑が見ていられなかった。しかしそんな彼にかけられる言葉が見つからないのも、ロックの胸中を荒れさせていた。
「べつにどうってことは…」
「…ッの野郎!」
シラを切る蒼佑にキレたロックは、彼が言い切る前にその頬を思い切り殴る。
それを受けた蒼佑はその身体を強く地面に打ち付けながら10mほど吹っ飛んだ。
「ちょっ!でんっ、ロックさ…」
さすがにマズイと呼び名を間違えそうになりつつロックを止めようとしたメリーナだが、それをバレットが手で制した。
「些かやりすぎとは思いますが、いい加減ソウスケには機嫌を治していただきたいですから、ここらで一回ロックに気付けをしてもらわなければいけません」
サラが不服とばかりにメリーナにそう告げたことで止めようがないと彼女は悟る。
抵抗しない蒼佑にロックは更に激昂した。
「テメェっ、何があったか知らねぇがいつまでも引きずってんな!アイツらに余計な心配かけてんじゃねぇよバカ野郎が!」
肺の中の空気を全て吐き出すかのように彼は叫ぶ。
蒼佑とロック、二人きりでの旅であれば怒ることもなかったであろうが、ロックにとっては彼以外のメンバーに心配を掛けている事が何より辛かった。
その思いを蒼佑に叩きつけるロックであるが、それが響いたのかは分からない。
しばらくの間ロックが蒼佑にキレたことで、幾分か蒼佑の表情はスッキリしていた。
暗いままなのは変わらないが。
「そうですか…アシュリーが……」
ガラガラと音を立てながら走る馬車の中で、蒼佑から話を聞いたサラがそう呟いた。
今はメリーナが御者をしており、蒼佑がアシュリーの店で見た光景をそのままロックらに話した。
それを聞いた皆は一様に顔を歪ませ、不快であると表明した。
「仕方ないさ、アシュリーだって自由に恋をするべきなんだ。そもそも俺がまた ''ここ'' に来たのだってあるはずない事だったし」
もし蒼佑が再び ''こちら'' に来ないまま、アシュリーが彼を待ち続けていたならば間違いなく彼女はそれに縛られることになる。
必ずしも恋をしなければならないという訳ではないが、その権利を奪うことはできない。
その事を理解しているからこそ、今回の出来事を納得している蒼佑である。
現実を受け入れた彼の表情は次第に明るくなり、自分の中で折り合いを付けたことが分かる。
伊達に叶わぬ恋を三度もしていないという事だろう、四度目ももう受け入れきってしまった。
もはや、アシュリーは彼の中で過去の存在である。
「アシュリーには、自分の恋人と旅をして欲しいよ。それが好き '' だった人 '' への想いってもんだろ」
まるで吹っ切れたように彼はそう言った。
もし蒼佑が初めての失恋であったならもう少しアシュリーにも可能性があったろうが、あまりにも彼の中に諦めるということが身近なモノであったために、アシュリーと蒼佑が結ばれることはない……なくなってしまったのだ。




