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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
本編・勇者たちの出立

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十六話 崩れる想い

 魔族の襲撃が終わり一週間が経ち、アシュリーの傷は紅美くれみの回復魔法もあってすっかり癒えていた。

 しばらくは店を閉めていたものの事情を知った人々から彼女への日頃の感謝もあって食事を持ってきてくれる人達もいた。

 もちろん魔族と戦った幸多たちも同じく感謝され彼らの世話になった。



「アンタには助けられたわね、コウタ」


「いえ」


 今は二人きり、アシュリーの店の外を二人で散歩していた。

 月明かりが照らすその辺りは ''向こう側'' にある都会では見られないほどに神秘的であった。

 それは魔力が空気と同じくくうに満ちているからであり、それが月明かりを淡く、しかしハッキリと輝かせていた。

 夜空にある星々も美しく、その景色はとてもロマンチックだった。


「どんなものかと思ったけど、ちゃんと強かったのは見直したわ。助けてくれてありがと……今更だけどね」


 一週間の間、アシュリーは療養中だったため幸多と二人で話す機会がなく彼女はずっと彼に礼を言いたかったのだ。

 あのとき自分を助けてくれたその背中に、確かに ''彼'' を重ねていたのだ。

 微笑んだ彼女を見て幸多が顔を真っ赤にした。


「そんな!アシュリーさんがあの時耐えてくれたからですよ!一人ずつならなんとか倒せましたけどもし二人相手ならキツかったです!」


「そっか、そりゃあどーも」


 ガチガチに硬くなる幸多を見て ふっ と笑うアシュリー。彼の気持ちはとっくに気付いていた。

 あとは彼から ''ソレ'' を待つだけだ。


 ふと幸多が足を止めて彼女を真正面から見つめた。


「アシュリーさん……」


「なぁに?コウタ……」


 互いに見つめ合う……じっと、静かに。


 その沈黙を割ったのはまた、幸多であった。


「俺は、あなたが…アシュリーさんが好きです」


「……そう…」


 そう答えた彼女の瞳は、微かに揺れたのだった。


 幸多の告白を受けたアシュリーは彼の手を取り店に戻った。

 本当は彼が好きという訳では無いが、叶わない恋の寂しさによってその心は静かに乱れていた。

 そっと幸多の胸に顔を沈めた彼女を、幸多はただ抱きしめたのだった。




「やっと着いたか、ここなんだろ?アシュリーがいるのは」


「らしいな、ここでなんちゃらって店をやってるってよ」


 ようやくアシュリーがいるという町に着いた蒼佑一行。

 蒼佑の問いかけに答えにもならない言葉を返したのはロックだ。

 彼らが着いたのは丁度 ''二人'' が夜の散歩をしていた頃。


「それ答えになってませんよ?脳筋ロック」


「たぁいえ(とはいえ)、俺らアイツの店の名前なんて知らねぇだろ…何でも屋って話だが」


 ロックにツッコミを入れるサラと実際のことを言ったバレット。

 呑気な雰囲気を纏う彼らだが、その心はかつての仲間が揃うことに喜んでいた。


「……大丈夫そうで安心したよ」


「あ?」


 ふと、町の様子を見て蒼佑がそう呟いて ホッと胸を撫で下ろした。実はここに来ている途中、彼は魔族の気配をこの町から感じ取りこちらに向かう足を早めたのだ。

 他の皆はなぜ蒼佑が急いだのかは知らないし、どうして彼が胸を撫で下ろしているのかも分かっていないが。


「とりあえず聞き込みをしてみませんか?アシュリーさんなら有名な方ですし名前を出せばすぐ分かると思います」


 冷静にメリーナがそう告げ、皆はその通りだと頷いた。意外とはしゃいでいるメンバーであった。


 すぐそこにいた男性にアシュリーの名を出すと、彼はすぐに教えてくれた。


「アシュリーさんならあちらに住んでますよ」


 彼は町の奥をゆびしてそういった。蒼佑はお礼を言ってそちらに向かう。

 皆で彼女の店に歩くが、蒼佑はドキドキとしている。なぜなら彼女が彼に告げた気持ちを今でも信じているからだ。

 "向こう'' で二度、いや三度恋人に振られた彼にとってアシュリーは大事な存在であった。

 とはいえ五年も離れていたことで彼女の気持ちがなくなったかもしれないという不安もある。


 もし次に会うことがあればその気持ちに答えると、そう告げたことを今でも大切に胸にしまっていた。その通りにする時が来たのだ。


「んじゃ、俺らはここで待ってるから挨拶して来いよ」


「はぁ、本当はあの子には渡したくないんですが……仕方ありませんね」


「行ってこい、ソウスケ」


「えっと……待ってますね!」


 ロック、サラ、バレット、メリーナの順にそう言ってそれぞれが手を振っている。

 蒼佑は手を振り返し、その扉に手を掛けた。


 扉を開けて中に入った蒼佑の目に映ったのは、抱き合っている幸多とアシュリーだった。


 彼の胸の中にあった淡い気持ちは、音を立てて崩れ去った。


 誰かを想う、その気持ちも。

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