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4. 猫耳幼女クロメ

 

 その猫耳の幼女は、とても可愛らしかった。

 年齢は10歳くらいか。黒髪、黒耳、黒尻尾の大人しそうな幼女。


『こんな年端もいかない子供まで、実験に使うのかよ!』


 流石に、ジジイの所業になれていた俺も、心が痛む。どうにかして助けたい。だけれども、今の俺は、ただの眼球。


 おもむろに、イカレジジイは、幼女の左眼球を取り出す。


 幼女は、左目があった場所を抑え、うずくまり泣いている。

 相当、痛かったのだろう。今までと違う。

 今迄、目を取られた奴らは目を取られても朦朧としていた。

 だけれども、幼女は泣いているのだ。子供だからだろうか?隷属の首輪の効果より、痛さの方が勝ったのか?


『チキショー!あんな可愛い幼女を泣かせるなんて!』


 俺は憤る。絶対に許さねえ。子供を虐める奴は万死に値する。

 俺の麻痺していた正義の心が、メラメラと湧き上がる。

 どうにかして助けてあげたい。黒猫の幼女なんて、超絶レアなのだ。というか、俺はあの子の左目になりたい。


 少しだけ、正義の心に願望も混ざってしまう。だって宿主を選べるというなら、男より女の子の方がいいし、しかも年寄りより若い娘の方が、なお良い。


 俺がこの猫耳幼女に、あんな事や、こんな事を色々教えて、俺色に育ててみたいのである。

 黒猫幼女が欲しい。どうしても俺のものにしたい。


 俺は、ひたすら念じる。

 左目を失った幼女に。

 俺を使えと。俺を欲しろと。


 ーーー


『痛い。痛い。痛いよぉ』


 左目が燃えるように痛い。

 痛みに耐えながら、最近起こった辛かった出来事が、走馬灯のように思い出される。


 住んでた村が魔物の大群に襲われ、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも妹も全員殺されてしまった。

 私は、たまたま近所の森で薬草集めをしていて助かったのだけど、魔族の大群が去った後、村人は全員、皆殺しにされていて。しかも、村は跡形もなく全て燃やされていたのだった。


 帰る家も家族も、知り合いも全て失った私は、朦朧と森をさまよっていた。何日も何日も……

 そして、疲れ果てて道に倒れてる所を、悪い大人に捕まって奴隷にされてしまったのである。


 奴隷にされた後は、そのまま競売に掛けられ、白髪のお爺さんに買い取られたのだ。


 そして今。私は、白髪のお爺さんに左目をクリ抜かれてしまっている。

 突然の事で、訳が分からない。頭がずっと朦朧としてたのに、余りの痛さに頭がクリヤーになって来る。


 痛い。痛いよぉー!!


 逃げなきゃ。ここに居ると何をされるか分からない。実際、左目を無理矢理、引っこ抜かれてしまったのだ。

 よく見ると床は真っ赤だ。赤黒い血の色に染まっている。この場所で何人の人が殺されたのだろう。まだ新鮮な、人であったであろう肉片が無造作に転がっている。


『俺を使え……』


 なんか、目から血を流し過ぎたのか、幻聴のような微かな声が聞こえてくる気がする。


『俺を使え……』


 確かに聞こえる。というか、直接、頭に響いてくる。


『俺を使え……』


 誰が、私に話し掛けてくるの?

 この部屋には、私の目を抜き取った白髪のお爺さんしか居ないのに?


『俺を使え……』


 体を動かそうとするが、動かす事が出来ない。

 そう言えば、お爺さんに命令された時以外、動くなと言われてた気がする。


『俺を使え……』


 クソー!どうやっても体が動かせない。

 だけれども、私はついさっき、動く事が出来ていたのだ。左目をくり抜かれた瞬間、痛みに耐えきれず、床で転げ回っていたのだ。


 だけれども、痛みに少し慣れて来た所で、また、体が動かせなくなっていたのである。

 そして、どうにかして唯一動かせるのは、もの凄く痛い左目の辺りだけ。口は何とか、まだ動かせる。


 私は、思いっきし唇を噛んでみる。


『痛い!』


 だけれども、痛さと引き換えに、首を動かす事ができた。


 そして目にしたのは、


『目玉?!』


 棚に整然と並べられた何十もの目玉。

 そして、その中に見覚えがある目が、懐かしい目が、そこにあったのだ。


『未来視眼……』


 未来視眼は、私、クロメが、欲しくて欲しくて、心焦がれていた、黒耳族に伝わる魔眼。


 黒猫族にだけ、たまに隔世遺伝すると言われている魔眼。

 そして、未来視眼を手に入れた黒猫族の戦士は、暗殺者として育てられるのだ。


 そして、クロメは、その未来視眼を持つ父と母から生まれた族長の子であった。


 だけれども、族長の子でありながら、クロメだけが、未来視眼が発現しなかったのだ。

 まあ、他の家の子ならそれでも良かったのだが、クロメの家は、族長の家。


 未来視眼が発現しなかった子供は、人として認められない。

 クロメという名前も、未来視眼が発現しなかった私への当て付けに付けられた名前。


 黒目の、何もない子供であるという事。

 未来視眼は、本当に綺麗な魔眼なのだ。

 瞳孔が虹色に輝いており、その虹色に輝いた瞳孔が未来を見せると言われている。


『欲しい……』


 クロメは、動かない体を無理矢理動かし、未来視眼が置かれている棚に向かおうとする。


『私の未来視眼……私が、絶対に手に入れるべき魔眼』


 クロメは、這いつくばって、未来視眼の元に向かう。



 そして、そんなクロメを見ていて焦り出す俺。


 クロメに宿主になって欲しいと、強く願ったせいなのか、何故か、クロメとパスが繋がってしまっていたのだ。


 その影響なのか、クロメが思った情報が、俺の頭の中に全て流れ込んで来ていた。


 クロメが、未来視眼に心焦がれるのは分かる。

 だけれども、未来視眼より、俺を欲してくれよ!


 というか、俺の方を少しは見ろ!

 俺が、どんだけ格好良いのか。俺は、そんじょそこらの魔眼じゃないんだぜ!

 何せ、値段も付けれない程の、意思を持った魔眼なんだから!


 俺の知識を持ってしたら、ここからだって簡単に、脱出できるし!

 未来視眼なんて、たかが10秒先の未来が見えるだけだろ!

 クロメが、今、ここで未来視眼を手に入れても、何も出来ずに、またジジイに捕まり、殺されるのが目に見えてんだよ!


 俺を使え!そして、俺を信じろ!

 未来視眼なんて、少しだけレアかもしれないが、ありふれた魔眼なんだよ!

 意思を持っている、鑑定眼の俺の方が役に立つって!


 俺は、クロメに振り向いてもらおうと、必死に訴え掛け続けるのだった。


 ーーー


 なんか先程から、必死な声が頭に直接響いてくる。

 私も、未来視眼を手に入れる為に必死なのに。


 だけれど、未来視眼に近づけば近づくほど、声が大きくなり、より一層必死になってくるのだ。


『俺を使え! こっちを見ろ!右だって右!俺はお前から見て、右に居るんだよ!絶対に後悔させないから!俺って、未来視眼より、物凄く役に立つんだぜ!』


 本当に五月蝿い。仕方が無く、クロメは右に顔を向ける。


 そこには、卍と、複雑な魔法陣の線が青白く光り輝く、中二心を激しく揺さぶる、格好良過ぎる魔眼があったのだった。


『欲しい!!』


 クロメは、色めき立つ。だって、瞳が虹色に輝く未来視眼より、この卍眼の方が、どう考えても格好良いのだ。


 だって卍だよ。しかも、なんかよく分からない格好良過ぎる魔法陣が、目玉の隅々まで描かれえるし、しかも、卍と魔法陣が青白く光り輝いているのだ。


『発光する魔眼って……』


 クロメは、もう、卍眼を手に入れた自分を想像する。


 眼帯で卍眼を隠す自分。

 そして、絶対絶命の時に言うセリフ。


『クックックックッ。ついにこの眼帯を外す時が来てしまったか。だがしかし、この眼帯を外したら最後、お前の命は無いと思え!』


 ニヒルに笑う自分の姿が想像できてしまう。

 実は、クロエはもの凄く中二病を患った幼女だったのだ。


 下手に近くに未来視眼という、レアな魔眼の持ち主がいたからか、憧れて、憧れまくって、もし、私が未来視眼を持っていたなら、どんな生活が待っていたのだろうと、ずっと妄想し続け、拗らせた結果が、今のクロメなのである。


『卍眼欲しい……』


 もう、クロメの瞳に映っているのは、この俺、卍眼だけ。


『来たー! ついに来た! クロメが、俺に食いついた!

 さあ、来い! 俺の元に!もう、相思相愛だよ!俺も、お前の左目になりたいんだよ!』


 クロメは、ほふく前進しながら、ついに俺の元まで来た。

 残ってる右目は、光り輝き、その瞳には、この俺、卍眼しか映っていない。


 そして、震える手で、俺が入った瓶の蓋を開け、その左目があった場所に、俺をそっと嵌め込んだのだ


 ーーー


 ここまで読んで下さりありがとうございます。

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