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10. 封印されし卍眼が解放される

 

「矮小な人間共よ!あ…ありがとう……」


 次の日の朝。クロメは朝起きると、第1村人の少女の家族に、ありがとう。と、言った。


 なんか、第1村人の少女の家族達は、とても驚いていたけど、クロメに笑いかけて、


「どういたしまして!」


 と、言ってくれた。


 本当に、たまたまだが、クロメが、初めて、ありがとう。と言った人達が、良い人達で良かった。

 まあ、矮小な人間共と言うのは、どうかと思うが、第1村人の少女の家族は、クロメがそういう設定の遊びをしてる子供だと、勝手に勘違いしてくれたのだろう。


 クロメの服装は、下が忍者のくノ一の格好で、頭には魔法使いの三角帽子。左目には、卍の字が描かれた眼帯までしてるし、中二病を拗らした子にしか見えないしね。


「クロメちゃんは、これからどうするの?」


 クロメが出された朝食を食べてると、第1少女のお母さんが聞いてくる。


 クロメは名前など名乗ってないが、何故、少女のお母さんが、クロメの名前を知ってるかというと、クロメは何故か、自分の持ち物全てに名前を刺繍しているのだ。


 俺が、クロメの持ち物と分かってるんだから、名前なんか刺繍しなくてもいいだろ?と、聞いたら、妹に奪われない為と言っていた。


 まあ、クロメの育った村は、弱肉強食がルールの村なので、未来視眼を持ってなかったクロメは、家族の中で随分と虐げられてきたのかもしれない。


 そして、クロメが必要以上に自分を大きく見せようとするのは、誰にも自分の物を奪わせないようにする為だと思われる。


 そして、一々、矮小な人間共よ!とか言うのは、私は強者だから、私の物は何も奪わせないよと、宣言してるのかもしれない。


 クロメの事を、最初は、中二のヤバい子かと思ってたのだが、全ての行動には意味が有り、そして、もう、誰にも何も奪われないぞ!という強い決意が、言葉に込められているのだ。


 それが分かっちゃうと、矮小な人間よ!と言うの、注意出来なくなっちゃうんだよね……


「卍様、今日の予定は?」


 クロメが、普通に俺に聞いてくる。

 少女のお母さんからすると、独り言を言うヤバい子だが、眼帯の下に隠された魔眼を主と慕っているのが、クロメの設定だと思ってるのか、スルーしてくれている。


『東の街に向かう予定だけどな』


「卍様は、東の街に向かうと仰っております!」


 クロメが、少女のお母さんに言う。


「東の街道を通るのは、止めなさい!」


 少女のお母さんは、強い口調で言う。


 今まで優しかったお母さんが、ここまで強い口調で言うという事は、何かあるのかもしれない。


「そうだな。東の街道は、魔物が多く出るから、子供一人っきりの旅は危ない。北から迂回するルートで向かうといいだろう」


 お父さんが、補足してくれる。


「クックックックックッ。私と卍様が、たかが魔物程度で恐れを成すと?」


 なんか、クロメのスイッチが入ってしまったようだ。


「クロメちゃんと卍様が、どれだけ強かったとしても、絶対に東の街道を通っちゃ駄目よ!」


 少女のお母さんは、真剣だ。


「矮小な人間風情が! 私と、我が主、卍様に指図するか!」


「そんなのするに決まってます! みすみす、クロメちゃんを、シルバーウルフやホーンラビットの餌になんて、するもんですか!」


 ん?シルバーウルフとホーンラビットだと?

 確か、その2匹の魔物は食べると美味しいと、ジジイの家で見た魔物図鑑に書いてあった。

 それに俺達には、食事が必要なのだ。

 お金、一切持ってないから、狩りをして今日の夕飯もゲットしないといけないし。


『クロメ! 行くぞ! 東の街道で、シルバーウルフと、ホーンラビット狩りだ!』


「はい! 卍様!」


 クロメは、お母さんとお父さんをガン無視して、家を飛び出る。


「ちょっと、クロメちゃん! 待ちなさい!」


 なんか、第1少女の家族が、俺達を追い掛けてくる。

 どんだけ、人が良い家族なのだ。だけれども邪魔だっての!

 俺は、クロメの保護者として、育ち盛りのクロメに栄養がある食事を食べさせる義務があるのだ。


 もう、こうなったら面倒臭いので、実力行使するしかあるまい。


『クロメよ。この分からず屋一家に、俺達の凄さを、怪我しない程度で分からせてあげなさい!』


「クックックックックッ。承知しました。卍様。無知な一家に、私と卍様の力を、見せつけてやります!」


 俺の言葉を聞いて、クロメは、俄然ヤル気になる。


 そして、


「無知な一家よ! 聞け!我が主、卍様が、何も分かっていないお前達一家に、卍様に眠る深淵なる力の、ほんの一部、米粒ほどを見せてやれと仰せつかった!」


 クロメは、そう言うと左目の眼帯を外し、第1村人の少女達に見せびらかすように、左手でチョキを作り、俺をグイッと見開く。


「ええぇぇぇぇ!!」


 流石に、眼帯の中から、卍の字と細かな魔法陣が描かれた魔眼が現れて、第1村人の少女一家は驚いたようだ。

 完全に、クロメの設定と思ってたようだし。


「クックックックックッ! 我が主、卍様の封印を解いてしまったからには、もう、ただでは済まぬぞ!

 フフフフフ。フワッ! ハッ ハッ……ハァァ……あ……ああぁぁああぁぁぁ……体中に、力が漲って行くぅぅ……」


 俺に刻まれた卍の文字と、魔法陣が、クロメの光悦した表情と呼応するように、青白く光り輝く。

 というか、俺は、クロメの気分に左右されて、出せる力がアップされてる気がする。

 多分、これがシンクロ率100パーセントの効果なのだろう。

 イカれジジイは、俺の力の5パーセントしか出せなかったが、、シンクロ率100パーセントのクロメには、100パーセント以上、プラスアルファまで出せてしまうようだ。


 クロメが言ってたように、異世界から禍々しい魔力が、グングン俺を通して、小さなクロメの体に取り込まれる。


「クワッハッハッハッハッハッ!! キタキタキタキタ! 感じる感じますよ!我が主、卍様の力が私の中に入ってくるのが!! 今の私なら、簡単にこの世界を支配できちゃうでしょう!」


 もう、ヤバい言動満載のクロメに、第1村人の少女一家は、青い顔して引いてる。


 そして、クロメは気分が最高潮になった所で、魔法の詠唱を始める。


「深淵に住みし地獄の王よ、盟約に従い、我に、全てを焼き尽くす地獄の業火を貸し与えよ。我が主、偉大なる卍様の名において命ずる」


 村はずれの空き地の空に、青白い幾千もの魔法陣が現れる。


 そして、


大灼熱地獄ヘルファイア!」


 クロメの巨大灼熱魔法が炸裂した。


 ーーー


 ここまで読んで下さりありがとうございます。

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