1. 魔眼転生
知らない天井。知らないシミ。薄汚れた壁紙。昔は、真っ白だったと思うが、今は茶色がかって、くすんでおり、建物の年月を感じる。
『ここは、どこだ?』
記憶が曖昧。頭にモヤが掛かってるようで、何やら、ぼんやりとしている。
俺は、ベッドから起き上がる。起き上がると言っても、自分の意思で起き上がろうとした訳ではない。勝手に体が動いて起き上がったのだ。
「フワッハッハッハッハッハッ! 遂に、成功したぞ!」
知らない男の狂気じみた笑い声が聞こえてくる。
聞こえてくるというか、俺自身が発してるのか?よくわからない感覚。
「50年の研究の成果だ!私は、遂に、成し遂げたのだ!」
なんか、俺ではない誰か。俺の体のヌシが、感極まっている。
俺はどうやら、このイカレてる男に宿っている、もう1人の人格。ん?イヤ違う。俺は、今、気付いてしまった。
70歳か80歳くらいに見える、白髪で髭がボーボーの老人が、鏡に映る姿を見て……
老人は、鏡に映る俺を見て、とても満足している。
そう、俺はどうやら、この爺さんの右目。
意味が分からないが、兎に角、俺は、このイカれた爺さんの右目になっているのだ。
だって、爺さんの右目。瞳孔が白字で卍が描かれているし。他の黒目の所にも、白目の所にも何やら魔法陣のような紋様が、ギッシリと描かれてるし。俺には、俺が、しっかり見えているし。
そう。どうやら、俺は、魔眼か何かに転生してしまったようであったのだ。
『ちょっと、待て待て。冷静に頭の中を整理しよう』
「ステータスオープンじゃ!」
なんか、爺さんが、ブツクサ言っている。
『う~ん……』
「ステータスオープン!!」
『やはり、幾ら考えてもわからんな……』
「ステータスオープン!オープンウィンドー!!」
『だから、五月蝿いって!』
なんか、爺さんが、鏡の前でアホなポーズを取って、唸ってるし。
「何でじゃ?何で、ステータスオープン出来んのじゃ?ワシが完成させた鑑定眼は、完璧の筈じゃのに……」
なんか良く分からんが、俺は、このイカレた爺さんが作った鑑定眼であるようだ。
でもって、この俺、鑑定眼の能力で、ステータスオープンなる、異世界アニメお馴染みのステータスオープンが出来る筈だったらしい。
イヤイヤ。俺、そもそもステータスオープンなんか出来ないから。そもそも、俺も今、自分が鑑定眼になったと知ったばかりだからね。
ステータスオープンしてあげたくても、出来ないから。
『ほら、ステータスオープン!』
俺は、試しにステータスオープンと念じてみたら、イカれた爺さんのステータス画面が出て来た。
名前: 不明
性別: 男
年齢: 70~80前後。
特徴: 頭のイカれた爺さん、なんか、叫んでる危ない人
「な……なんと……」
何か、ステータス画面が出て来て嬉しかったのか、頭のイカれた爺さんが、プルプル打ち震え始めた。
そんなに自分のステータスが出て来て嬉しかったのか?まあ、確かに、初めて見たら嬉しいよね。
俺も今、ステータス画面見て、『異世界転生したんだな!』と、実感できて、感動してるしね。
しかし、自分が鑑定眼なのは、頂けない。
勇者とか賢者とかが良かったんだけど。
まあ、意思があればそれなりに楽しいか!
見た感じ、俺の宿主のイカれた爺さん。行動が面白そうだしね。
このイカれた爺さんの鑑定眼として、行動を共にするのも、それなりに面白いかもしれない。
とか、目ん玉になってしまった悲しみを押さえ込み、無理矢理プラス思考になろうとしてたのだが、
「クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!!」
なんか、イキナリ、爺さんが壊れ始めた。
「失敗じゃ! 何がイカれたジジイじゃ! 誰が70~80歳じゃ!ワシは齢300歳の大錬金術師じゃ!」
なんか、イカれた爺さん……嬉しく震えてたんじゃなくて、ステータス画面に出て来た鑑定結果がお気に召さなくて、打ち震えていたようであった。
まあ、確かに、イカれた爺さんとか書いてあったら、ムカつくか……
しかし、それにしても何だろう?
このイカレた爺さんの鑑定結果って、そのまま、俺がこの爺さんを見た感想なんだけど?
もしかして……
イヤイヤ違う。気のせいだよね。
俺は、鏡に映るイカれた爺さんの顔をマジマジ見る。そして、最初から気付いていたのだが、敢えて触れてなかった爺さんの左鼻。ピョコンと生えてる鼻毛を意識してみる。
すると、
名前: 不明
性別: 男
年齢: 70~80前後。
特徴: 頭のイカれた爺さん、なんか、叫んでる危ない人、鼻毛ジジイ。
思った通りというか、案の定、イカれた爺さんのステータス画面に、『鼻毛ジジイ』と、反映されたのであった。
「な……なんじゃと! は……鼻毛ジジイ……」
鼻毛ジジイは、老眼なのか、鏡に近づいて、自分の鼻をマジマジ見る。
なんか、鼻毛ジジイの背中からメラメラと炎が出てる気がする。
「キィィーー! ふざけるなーー!!」
鼻毛ジジイは、奇声を上げながら、鏡に映る俺(目玉)に向かって指をぶっ込む。
『イヤイヤ! ダメダメダメーー!!』
俺は、ただの目玉なので、声を出す事も、叫ぶ事も出来ない。心の中で叫ぶのみ。
そんな俺の心の叫びを無視して、容赦ないイカれジジイは、俺(目玉)を握り締め、そのまま顔からぶっこ抜いたのだった。
『アッ……俺、死んだわ……』
こんな狂気じみた感じで、異世界での、俺の人生は幕を開けたのだ。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。引き続き読んでくれたら嬉しいです。