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奪回のソラ  作者: 琹葉 流布
13/20

2-3 交錯する記憶の破片に

 鬱蒼と生い茂る木々や低木の茂みは、視界から全てを覆い隠し、先にあるものを消し去る。

 実際に手を掛けるまでは、何があるか分からない。

 そんな道と言えるかすら曖昧な場所を、切り拓くように進む。

 しかし、後ろから聞こえる声は、なんとも脳天気なもので、和気あいあいとした雰囲気だ。

 まるで観光にでも来ているかのように、周りを見渡しながら四人で盛り上がっている。

 感情の読めない瑠璃ですら、笑うまではいかなくてもやや浮足立っているように見える。

 ……未開拓の地のどこが面白いのだろうか。

 前を見て構わずに歩く。パキパキと低木の枝を折り、背の高い草は踏み倒し、ずんずん先へ進む。


 「あっ、なぁ響さ、ほんとに記憶ないの?」

 「ん? ああ、そうだな」


 薫の不意の話題転換に驚きつつ、返答する。


 「でもさ、“(ゲート)”の事、分かるんだろ?」

 「……ああ、そういうことか」


 じっと考える。 自分の中にある映像を整理する。 何がなくて、何が残っているのかを。

 記憶がない、というわけではない。なんの感慨もない言い方をするなら、酷い物忘れのようなものである。


 「──なんというか、今の俺の記憶は、『喪失』って言うよりは『欠落』かな」

 「じゃあ、全部を全部忘れたんじゃなく、覚えてる事はあるんだな」

 「そうだな」

 「じゃあ少し話してくれよ、覚えてる事」


 覚えてる事、か。 俺はそうでもないが、まあ見知らぬ相手とこれから行動するんだ。 探りたくなるものもあるか。

 また現れた低木の枝を折る。草を踏み倒す。


 「俺が育った所は、大して裕福でもなく、かと言って貧しい訳でもない。 でも暖かい、そんなありふれた場所」


 話しながら思い返す。

 なるべく少しでも、思い出したい。


 「中央区からは少し離れたところでさ、国の状況とかは全部報伝紙(ほうでんし)で知ってた。 俺は大して頭がいいわけでもなく、ありふれた少年だった。 少しだけ剣が上手かった。 それだけ」


 チョロチョロと川のせせらぎが聞こえる。

 若干右に進路を変えて、道を(ひら)く。


 「俺は大人にも混ざって、狩りとかに出かけた。 でも俺は大して強かった訳でもないから必死で、魔法を覚えたいって言ったんだ。生まれた時、吉兆みたいなのがあったらしくて、お前には魔法の才能がある~なんて、成人したら中央区に行くのを勧められたくらい。でも俺は故郷が好きだったし、俺達の村には魔法が使えるやつ、居なかったんだ」


 狩猟班(しゅりょうはん)リーダーはたしかリエドだったか。

 弓の扱いが上手くて、村一番と名高かった男。

 徐々に背の高い草木は減って、視界が開けてくる。

 川の流れはより明瞭になり、あと僅かで見える事だろう。


 「それで……なんでだっけ、四番地区だっけな。 そこの学校に入学した」


 ここからが大事な記憶だと思うのだが、思い出せるのはここまでだった。

 ……開通し、木が少し開けた川辺に辿り着いた。


 「いやいや、教えてくれてありがとな。 にしても魔法かぁ……。 俺も使ってみたいなぁ」

 「──そうか」


 未知なる力への憧れはまあ、わからないことも無い。

 薫達の世界には魔素が少なく、ほぼないと言っていい程の濃度だった。 その為、魔法が使えるものは居ないと言っても良いだろう。

 ──ここまでの興味を示されるとは思っていなかったが。

 それはつまり、そんな世界に魔法が使える人間がいるというのは、とても危険な事だ。

 魔法は人を簡単に殺し、物を容易く操り、国を一夜にして焼き付くせる力。話を聞いた限りでは、彼らの世界の軍事国家一つ分の力を、一人が任意に使えるのだ。

 彼等はあくまで『異世界への帰路探しを手伝ってくれている』のであって、『魔法のある世界に永住する』訳では無い。

 まあ、それだけではないが。

 要するに、魔法を教えるにはリスクが大き過ぎる。


 「……この辺で一旦休むか」

 「りょーかい!」

 「…………」

 「ん、どうしたの?」


 表情が陰っていたのだろうか。すみれが心配そうに見つめてくる。


 「驚かないのか? 怖く、ないのか?」

 「どういう事?」 分かってない顔。

 「突然魔法だなんだって言って、どうしてそんな平然としてるんだろうなって思って。 そんなもんなかったんだろ?」

 「あー、まあ、慣れてるからね」


 よく分からない返事が返ってくる。知らないものにどうして慣れたというのだろうか。


 「俺はちょっと周りの散策に行ってくるから、なんかあったら呼んでくれ」

 「おう、分かった」


 切り替えて、別の事に意識を向ける。

 この世界で一つだけ気になる事がある。

 敵対生物(クリーチャー)が生息しているのか、だ。

 森の中を歩いてる時には見かけなかったが、敵対生物(クリーチャー)は一定の力差を感じると隠れてしまう。

 まあ、自分が勝てないとわかっていながら、わざわざ狩られにくる敵対生物(クリーチャー)は居ない、という事だ。

 “敵対生物(クリーチャー)”などと言われているが、実際は『ちょっと戦闘力の高い生き物』である。

 ちゃんとそれぞれ自我があるし、遊んだり、話したりする。 中には人と交流し、協力関係を作る敵対生物(クリーチャー)もいる。 まあ明確な意思疎通が出来るのは、大半が魔族と区別されるし、そもそも協力できることが分かっているなら、敵対生物(クリーチャー)などとは呼ばないが。

 要するに、人間に都合のいい区分。

 本能的に敵対を基本とするものは敵対生物(クリーチャー)と一纏めに。

 友好的であることを基本とするものは、動物と一纏めにする。

 癒しや狩猟を共にする従職動物や、食料生産や植物の生長促進などをする生産動物。

 そうやって、敵のみを区別したところで、知性があるのは同じ。

 だから、自ら危険には入ってこないわけで、


 「響ーーーっ!!」

 「……やっぱりか」


 魔力を軽く使い、来た道を戻る。

 魔素が補充された身体は、前ほど痛みを感じない。

 走る時に感じる風っていいな、等と関係の無い事を考えながら、川辺に駆ける。

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