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奪回のソラ  作者: 琹葉 流布
12/20

2-2 交錯する異世界の邂逅に

**********


 「ぐはっ」


 叩きつけられる。

 漂っている最中に気を失っていたらしい。

 “扉”の位置が少し高かったようで、大木の幹、地上二メートルほどの所に開いていた。

 蒼い若葉、深い緑、連なる木々。

 見渡す限りは森の中。

 うん。見た事ない所だ。

 ぱんぱん、と服に付いた土汚れを払い、深呼吸する。

 身体に枯渇していた魔素が満ちる。

 そのお陰か、割れそうな頭痛も幾分かましになり、徐々に周りの風景へと関心を向けるだけの余裕ができる。

 

 近くにあった木に触れる。

 中央地区からやや南東の地区に生えていた木に似ている。が、別の木だ。

 あの木は成長すると、根の近くに必ず小さな亀裂が出来る。 何故かは知らない。 俺は植物学者では無いから、知ろうと思ったことも無い。

 それほど分かりやすい一致点がなく、それだけ分かりやすく別物。

 それに、この森にある木は、ほぼ全て同じ形なのだ。

 少し、不気味だ。

 そう考えながら、辺りを見回す。

 ──さてどうしたものか。

 自分の世界は、人間族の区域に関して言えば、熟知していると言っても過言ではない。

 一部の人間しか立ち入れない、王宮のある一番地区。

 周りを囲む王都の三番地区。

 金色に彩られる麦畑の十六、十七番地区。

 国境地帯で、兵士達と訓練をした二十四番地区。

 細かい部分までは思い出せなくても、それらは記憶の欠片として、幾らか顔を覗かせてくれる。

 それでも、このような風景は知らない。

 ……などと、少しでも情報を得ようとしていたところだった。

 

 「痛っ!!」

 「……おー」


 背後になんか降ってきた。

 ……は。は。


 「なんでいるんだ!?」


 振り返る。

 土煙が盛大に立つ。徐々に晴れたところには明るい黒。


 「やー、ちゃんと帰れたかは分かんないじゃん?」


 ぱんぱん、と服に付いた土汚れを払う。

 こちらがよく分からない。


 「はあ、とりあえず俺は無事に着きました。 ので、帰ってもらって大丈夫ですよ」

 「……本当に?」

 「本当に」

 「そっか! じゃあ良かった!」


 訝しげだった顔が微笑む。

 明るいな、と思う。

 心の底からの、笑顔。そう見える。

 ……本当に。


 「ふぎゅっ」

 「……おー」


 土煙が盛大に上がる。お二人目いらっしゃい。


 「いたた…… あ、ひな!」

 「すみれも来たんだー!」

 「来たんだー! じゃなくて!!」

 「いだっ……ぐべふっ 」


 ……もう二人、いらっしゃい。

 最初に墜落した薫が、瑠璃の下敷きになって潰れたカエルのようになる。てか、ついさっき落ちてきたばかりの、二人目のお客さんは何処に行った。


 「ひなっ! 大丈夫? 怪我してない!? 私の事わかる?!」

 「うん、だいじょうぶだいじょうぶぶぶ」


 激しく肩を揺する。

 うん。問題なさそうだ、が。意外な一面だな。

 割とクール系かと思っていたのだが。

 内心の驚きはなるべく出さないように、最後尾の二人を見る。


 「大丈夫? 薫」

 「おう、平気だ。 が、できれば、早めに、降りてくれ」

 「あ、ごめん」


 こっちも大丈夫そうだな。

 ……しかし、どうしたものか。


 「なあ、俺は確か『元の世界に帰るのを手伝ってくれる』って聞いたんだけど。 何故こっちまで渡ってきたんだ」

 「んー心配だからですよ?」


 肩を揺すられていた日向がこちらを見る。


 「そうか、ありがとう。でも心配は無い。 さっきも言ったが、無事にこうして世界についたし、もう帰っても──」

 「でもここ、響くんの故郷じゃないよね?」

 「……」


 全てを透かすような、深い目。

 表情は柔らかい。なのに、心の芯に突き刺さるその視線の前では、何も、隠せない。


 「どうして、そう思う」

 「どうして、だろうね」

 「……ああそうだ。 ここは、俺の居た世界じゃない」


 覇気に屈して、口を開く。

 周りが驚きで息を詰まらせる。

 さっきは納得したのでは無かったのか。

 精一杯の抵抗も無意味なものだ。本能的に畏怖する、そんな瞳。


 「それは、どういう事」

 「この扉は初代の試作機。 動作は不安定で、何処に出るかも分からない。移動するタイミングによっては、虚空へ放り出されてさようならーなんてこともざらにあった」

 「それで、響が来る前の世界とは違うところに来ちゃった、って事か」

 「ああ。この世界も、魔素が少ない。最低値だとしても、これじゃ本調子に戻るまで、まだかかりそうだからな」

 「じゃあ、この世界じゃない、別の世界に行かなきゃ、いけない。 そういう、こと?」

 「……ああ」


 本当に皆、理解の早い事だ。自分だって、まだ状況を掴めきれていないのに。

 隠して、行くつもりだった。

 そもそもあの世界の扉を見つけられた。 それだけで満足だった。ありがたかった。

 あの公園で命を救ってもらって、『助ける』って言ってもらって。自分一人じゃできない事だった。

 でも、巻き込むべきではないのだ。


 「……ひなも無事だし、みんなこっちに来ちゃって、君はまだ帰れてない。 じゃあ約束はまだ続いてる」

 「そうだね!」

 「おう」

 「……うん」


 ──お人好しだな、などと。

 ほんの少しだけ、心が軽くなった気がした。

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