外出
翌日、私は再びギルドを訪れていた。
昨日この国に到着してから今に至るまで、夫になる予定の男が離宮を訪れるどころか、便りの一つもない。
期待もしていなかったので、別に良いが。
むしろ捨て置かれている方が、自由に動けて良い。
壁に貼られている討伐情報やら、窓口脇に置かれている採取情報やらを眺めた。
……ヴェルナンツ王国より、手付かずな地域や依頼が多い。
ヴェルナンツ王国はジェレミーの影響で、魔物を討伐するハンターは憧れの職業。
つまり、ハンター登録者数が多い。
そしてハンターを管理するギルドも、国内で一定の権威があり、ハンターの支援も充実している。
それに対してこの国は、ギルドの力が弱い。そのため、個々のハンターの実力に依存している、といった印象だ。
大量にある依頼の中から、面白そうなのを探す。
どうせ、ラザールやデボラが仕事を終えるまでの、単なる暇つぶしだ。
……あとは、食糧になりそうな獲物を狩れれば良いのだけど。
そんなことを考えながら依頼を選び、のんびりと歩いて目的地に向かう。
王都を出入りするための門は四つあり、昨日とは真逆の東門から出た。
青い空、白い雲。下を見れば、草原の緑。
のどかだな、ピクニック用の弁当を持ってくれば良かったな、と思いつつ景色を堪能する。
さらりと風が頬撫でた。
良い暇つぶしになった、と気分上々。つい鼻歌を歌っていた。
そんな完全に散歩気分に浸って歩き続けたところで、魔物と遭遇。
角を持つ赤茶の狼のような姿をしたそれは、私が受けた依頼の討伐対象。
討伐は五匹だけど、三十匹はいそうだ。
初級相手に、なかなかギルドも吹っ掛けるなぁ……と、向かってくる魔物を見て溜息を吐く。
事前に情報収集をしなかった自分が、一番悪いのだけど。
これで死んだら、自業自得なだけ。
……尤も、死ぬつもりはないので魔法を展開する。
「【雷矢】」
左手を宙に向けつつ呟くと、複数の雷矢が空中に現れた。
そして左手のひらを地面に向けた瞬間、雷の矢がそれぞれの軌道を描いて魔物に向かう。
雷矢が当たった瞬間、魔物は燃え果てた。
……あっけない。
撃ち漏らした時のために、何本か雷矢を空中に待機させていたけれども、全く使う場面がなかった。
暫くの間、地面に倒れた魔物を観察する。
……ちゃんと、討伐が完了していたようだ。
そしてそれから、燃え残った魔物の遺体を解体して、素材を確保した。
これで、依頼は達成。
もう帰っても良いけど、折角だから食材になる獲物を狩りたい。
何かないか、と更に奥にある森に入って歩き回る。
「……ん?」
ふと、気配で人が近づいて来るのを感じた。
……急いでいる?
まるで、何かから逃げているかのような速さだ。
「助けてくれ……っ!」
走って来たのは、男二人と女二人で計四人。その内の男一人が、私を見つけて叫ぶ。
皆、逃げるだけで精一杯のようだ。
それぞれ武器を携えているけれども、それを構える余裕はない。
彼らの後ろから、ビッグベアが二匹現れた。
名前の通り、熊みたいな魔物。動物の熊と違うのは、眉間の間に角が生えていること。
血走った眼と口から垂れる涎を見れば、彼らを獲物として狙っていることは一目瞭然だ。
……私は溜息を吐きつつ、ビッグベアと彼らの間に割り込んだ。