討伐
王宮を抜けて向かった先は、ギルド。
今日はエリクたちと一緒に依頼を受ける予定だ。
「……すまぬ、待たせてしまった」
待ち合わせ場所には、既にエリクたち一行が揃っている。
「いえいえ、こちらも到着したばかりですので。今日も、よろしくお願いします!」
エリクは愛想の良い笑みを浮かべつつ、頭を下げた。
「こちらこそ、よろしく頼む。……くれぐれも、無茶はするでないぞ」
「はい!」
この一年で、エリクたちはとても強くなった。
ほんの一年前まで卵の殻がついたひよっこ初級ハンターだったのが、今では中級ハンターの中でも実力が頭一つ飛び抜けている。
それに伴い彼らの引率はなくなったけれども、出会ってから一年経った今も、偶に合同で依頼を受けていた。
今回は、とある魔物の討伐依頼。
一月前、とある村が壊滅的な被害に遭ったそうだ。
命がらがらに逃げた出入りの商人が報告し、国を通してギルドに緊急依頼を発行。
ただ、殆ど情報らしい情報はない状況。
そのため、ギルドはまず情報集めのために斥候役のハンターたちを放った。
けれども、残念なことに彼らの中からも少なくない被害が発生。
事態を重く見たギルドは上級ハンターの起用をしようとしたけれども、残念なことに数少ない上級ハンターは皆その他の依頼を受注中だった。
とは言え、緊急依頼だ。……上級ハンターの帰りを待つことも難しい。
そこで、白羽の矢が立ったのがエリクたちのパーティー。
防衛線の構築、可能であれば討伐対象の魔物に一当て行ってこいと。
彼らの腕は信頼しているが、流石に今回は心配だった。それで、この依頼に同行することを決意。
エリクたちとギルド、それからレリアたちにそれぞれに同行を願い出た。
エリクたちはあっさりと同行を許可してくれたけれども、問題だったのはギルド。
指名依頼だからと、私の同行を渋ったのだ。
けれども結局、普段から彼らに同行しているということと、中級ハンター資格とそこそこの実績を持っていたことで、何とか許可をもぎ取れた。
……念の為と、時折依頼を受けていて良かったと思う。
レリアも渋ったけれども、最終的には私の意思を尊重してくれた。
そして今日、件の村に向けて出発。
強力な魔物が現れたとする村まで、とにかく脇目も振らずに進んだ。
当然のように、村までの道にも魔物が現れる。
けれどもエリクたちは危なげなく順当に討伐して進んだ。
「あそこ、ですね……」
斥候のカロルを先頭にして、村の中を慎重に進む。
既に村には人の気配はなく、静かで重い空気が漂っていた。
……何もなければ、長閑な村だろうに。
そんなことを考えながら、彼らの後を着いて行く。
カロルが、止まれと手を上げた。
その指示通り、皆が止まる。
民家が邪魔で目視できないが、確かに魔物の気配を感じた。
その魔物の気配を頼りにしつつ、自分たちは気配を消しながらこそこそと動く。
……どうやら、魔物には気づかれていないようだ。
皆が魔物を囲むように配置に付いてから、アメデとディオンが身を隠していた家屋の影から顔を出し、それぞれ遠距離からの攻撃を試みる。
同時に私も飛び出した。
……キメラだ。
二人からの攻撃を受けている魔物をじっと見つめる。
頭はライオン、胴体は虎、そして尾は蛇。
手足には鱗。
確かにキメラならば、そんじょそこらのハンターでは太刀打ちができない。
ゲームでは中盤のボスで、動きは遅いものの一撃のダメージが大きくて、その上攻撃のバリエーションが豊富。
ゲーム・システムに慣れなれていないと攻略は難しい、壁の一つと評される存在だ。
カロルがキメラの注意を惹きつつ、上手く攻撃を避ける。
そして剣士であるエリクが近くから、ディオンとアメデが遠距離から隙を見て攻撃をしていた。
……見事な連携だ。
それこそ、一年前とは比べるべくもない。
「ちっ……何よ、この魔物は……!」
なかなかダメージを与えられない中、カロルが焦ったように呟く。
「落ち着け、カロル!焦ると危険だ」
エリクが叫んだ。
カロルは大人しく彼の言葉を受け止めて、避けつつ攻撃を繰り返す。
突然、キメラの目が光った。
そしてその瞬間、雷が頭上から降ってくる。
「うわっ!」
後衛を狙ったその攻撃は、弓使いであるディオンに当たった。
「ディオン!」
エリクが叫ぶのよりも早いか遅いか、キメラは前脚を振り上げてカロンに振り下ろす。
彼女は紙一重で交わしたものの、続けて繰り出された逆の前脚による攻撃が直撃。
吹き飛ばされたと同時に、キメラはくるりと回って尾をエリクに向けた。
彼女に気を取られていたエリクは、その攻撃で彼女と同様に吹っ飛んで行く。
【風繭】
ディオンの回復をしていた私は、吹っ飛ぶ彼らを優先して受け止めた。
「アメデ、彼らの守りを頼むぞ」
「は、はい……!」
アメデは頷き、素直に彼らの側に寄る。
【雷剣】
キメラの攻撃を掻い潜り、傍から雷の剣で切りつけた。
「ぎゃぁぁぁ」
キメラが頭で悲鳴をあげる。
続けてニ撃三体撃と、攻撃を加えた。
暴れ出したキメラの腕が私に振り下ろされ、咄嗟に腕で庇う。
「くっ……!」
一旦距離を取った。
【炎球】
炎の球が、キメラに直撃する。
【雷剣】
キメラが怯んだその隙に、再びキメラを切りつけた。
キメラが攻撃のモーションに入ったら距離を空け、魔法を放つ。そして、それで怯んだら再び近距離で切りつける。
「はぁはぁはぁ……」
それを繰り返し、ついに、キメラは絶命した。




