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王女の戯  作者: 澪亜
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一年

イーデア王国との交流会が成功に終わり、一年が経った。

思い返せば、あっという間。


歳を取れば取るほど、時の流れを早く感じるらしい。


ならば、二度の生まれ変わりを経験している私は、それだけ誰よりも早く感じられているのだろうか。

……比較できないから、よく分からないけど。


それはさておき、この一年で環境は大きく変わった。


まず、宮中。

ラザールを筆頭に私の陣営にいる官僚たちを要所に配置して、改革に着手。


様々な条例や施策を新たに発布したり、既存のものを変更したり。

それから、宮中の体制そのものを変えたり。


お陰で、少しずつ民の暮らしも上向いてきていた。


ただその分だけ、ラザールは仕事で忙殺されている。


心配で様子を見に行く度、山となった書類を見て愛おしそうに頬を緩めていた。

……正直、別の意味で心配になった。


それで半強制的に休ませると、彼は決まって不機嫌そうに宮中をブラブラする。

そしていつの間にか、新たな仕事を見つけ出す。


その、繰り返し。

……成果は着実に表れているから、最早文句も何も言えないけど。


次に、貴族。

ラザールが職務を全うした結果、宮中で不正に携わっていた官僚たちを次々と摘発。

そしてその余波は、彼らの実家に及んだ。


官僚たちが単独で不正をしているなら兎も角、彼らの実家が関わっている案件もちらほら。

当然、それらの家には、罪に見合った罰が与えられた。


罰金で家が傾いたり、不名誉な噂が流れて社交の場に顔を出せなくなったり。

そうして家の幾つかは、静かに消えていった。


加えて、イーデア王国との交流会の裏で、私の味方に引き込んだ家が幾つもある。


結果、今の貴族の中には三つの派閥が存在するようになった。


一つは、モルドレッド伯爵家を筆頭とした派閥。王の寵姫リゼットを支援している。


一つは、ラガルド伯爵家を筆頭とした派閥。私の支援をしてくれている。


そして最後に、アルヴィエ侯爵家を筆頭とした派閥。

私に味方するでもなく、かと言って王を支援しているようでもない。

唯一分かっているのは、モルドレッド伯爵と対立している、ということぐらいだ。


それから、ティリエ伯爵家と他幾つかの家は完全な中立として静観しているが……彼らはアルヴィエ侯爵家の派閥と違って一匹狼で動いているから、さして力関係に影響はない。


つまり、だ。

残念なことに貴族の中に、王を積極的に支持している派閥はない。


強いて言えば、モルドレッド派閥。

けれども彼らもリゼットありきの支持なので、王単体の味方かと問われれば首を横に振らざるをえない。


……私がこの国を引っ掻き回したせいでもあるけど、根本的には彼が支持基盤を築き上げることを怠ったことが原因。


フランシスの兄である先代王も支持基盤を固める前に崩御したそうだから、多分、そもそも簡単につけ入る隙がある程、貴族社会はガタガタだったのだろうけど。


国政を回す官僚からも、貴族からの支持基盤もない中で、健気にも王はあの手この手で私たちの動きを妨害しようとする。


私を追い落とすという共通の目的があるからか、私の動きを妨害するという時だけは、モルドレッド伯爵も積極的に王に協力していた。


けれども、宮中を掌握しているのは私たち。

そしてモルドレッド伯爵派閥に対抗できる、ラガルド伯爵が味方にいる。


その為、王やモルドレッド伯爵たちの企みが成功したことは、これまでなかった。


……本当に、何故王は今更動くのか。

今更私を追い落とそうとも、もう遅い。


動き始めるのなら、せめてイーデア王国の歓迎会前までにすべきだった。


全ての始まりは、強引にフランシスに署名させた契約書。

あの契約は要約すると、歓迎会が成功するよう王が持つ全ての権限を私に与える、という中身。


そんな曖昧な条項で契約を結んだ彼の気が知れない。


宮中の官僚たちを、入れ替える。

……それは、歓迎会の為に必要なのだ。

インフラを強引に進める。

……それは、歓迎会の為に必要なのだ。


そんな無茶な論法で、強引に通せてしまえるのだから。


そして一度通してしまえば、こちらのもの。

実績を積み上げ、支持基盤を作り上げれば、元に戻すことは難しくなる。

そうして、彼の手足を着実にもいでいったのだ。


……そろそろ、モルドレッド伯爵も焦りが出てくるかしら。


「レリア、少し出掛けてくるわ」


支度を終えて、手伝ってくれた彼女に声をかける。


「畏まりました」


そうして、宮中を抜け出した。


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