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王女の戯  作者: 澪亜
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◆晩餐

日が沈む頃、ユリウス王弟とイーデア王国の一団が会食場に現れた。

会食場にいるフレール王国側の人間は、姫様とラザールだけ。

……二人とも、フレール王国側の人間と称して良いのか微妙だけど。


それ以外の人がいないことに当惑したらしく、ユリウス王弟はサッと視線を会場内に巡らせた。

……そうして、会場内の装飾に彼は気がついたらしい。

僅かに目が見開かれていた。


会場内はレリアの手によって美しく磨かれ、飾り付けがされている。


あちこち上から下へと柱に絡まるようにして伸びているのは、氷魔法で作られた蔦の模造品。

更に同じく氷魔法で造られた花々が至る所に飾られおり、まるで会場内は無色透明の庭園にいるようだ。


神秘的で、美しく、そしてだからこそ、晩餐会でも通用する自然をテーマとした装飾だった。


「あの二人が来ることはないと思いまする。先程話した通り、貴殿とゆっくりと話したいと思いまして」


「なるほど、なるほど。……それでは、今頃何をしているのでしょうかね?」


国賓を置いて、何を?という副声音が聞こえる。


「今頃二人で、のんびりと過ごしていると思いますぞ。誤解なきよう申し上げると、長旅で皆がお疲れであろうと、後日に歓迎の夜会を開くことを了承しておりまする」


姫様がニコリと笑みを浮べた。


「そうですか。……貴女様が全てを整えられたのであれば、楽しい晩餐会になりそうです」


……ふーん、なかなか。

そんな感想を抱きつつ、思わず笑みが溢れる。


どうやら、ユリウス王弟はこの短いやり取りの中で、今回の交流会の差配を全て姫様が担ったということに気がついたようだ。


しかも、その役割を無理矢理姫様が奪い取ったということではなく、フレールの王座に就くあの男が姫様に任せたということも。


あの男が挨拶の時に、リゼットにしか目が向いていないという失態を犯してくれたおかげでもあろう。


「貴国への歓迎の意と、両国間の末長い友誼を祈念し、ささやかながら晩餐会を準備した。是非とも楽しんで頂きたい」


「私どもも、フレール王国との友誼を切に願っています」


姫様とユリウス王弟がグラスを手に取って、飲む。そしてそれから、その場にいた参加者も皆が杯を傾けた。


「……ヴェルナンツでは、このような飾りが流行っているのですか?」


「さあ……残念ながら、妾はあの国の流行に疎くて」


「ご冗談を」


「ほほほ、随分と意地悪なことを。貴殿もご存知では?妾があの国で、殆ど表に出ることはなかったということを。貴殿に今まで会ったことがなかったということが、何よりの証拠であろう」


「ですが、そろそろ母国が恋しいのでは?」


「嫁いだ身なれば、そのような感傷を抱くことは許されませぬ。まあ、本音を申せば……嫁ぐ前は何かと窮屈であったが、ありがたいことに、この国では自由にさせて貰えている故、過去を振り返る気持ちにもなれぬなあ」


「不躾な質問、失礼しました」


食事が運ばれて来る。

レリアが監修した、美しいそれが。


彼女が姫様のためにつくった料理だ……目にも美しいが、匂いも良い。

そして何より、絶対に美味しいだろう。


多めに作ってくれていないかしら?後でレリアに確認してみよう。


「本日の食事は、豊祈祭も間近故、全ての膳が野菜のみとさせて頂いている。気兼ねなく楽しんで頂きたい」


一瞬、イーデア王国側の参加者がザワついた。


「……感服しました。貴女様は、我が国のことをよく学んで下さっているのですね」


イーデア王国では国民の大多数が信仰している神へ、恵みを祈る祭りが国をあげて毎年開かれている。


特に厳格な信者はその祭りが開かれる期間の直前二十日間は、肉や魚類を一切食べない。


ただ、昔は一般的だったらしいその食事制限も、今となっては廃れていて、イーデア王国民でも殆どが普通の食事を食べているらしい。


私も、姫様から質問を受けるまでは知らなかった。


以前イーデア王国について私から報告をした時に、豊祈祭のことを報告して、それなら食事制限は?と姫様から質問を受けた時には焦ったっけ。


姫様は諸外国の知識に関してカビの生えた古いそれしか知らないと言っていたけど、逆に言えば他国の歴史を深く知っているということは大きな強みになるのでは、と純粋に思った。


「美味しいです。とても、肉類や魚類を一切使っていないと思えぬほど濃厚で、それでいてクドくはない」


「料理人にとって、貴殿のその評価は今後の励みになりましょうぞ」


それからも和やかに食事は続いた。

最後には温かい飲み物が提供される。

姫様とユリウス王弟だけ、普通のコーヒーや紅茶ではなく、表面が白いそれ。


「貴殿との会食は、楽しいひと時であった。次の機会を切に願っている」


「ええ、私もソレイユ様に同感です」


二人の間で、定型分のようなやり取りが交わされた。そして、至極平穏に晩餐会は終わった……と思っていたのだけれども。


姫様に目配せをされて付いていけば、何故かこじんまりとした部屋に男が二人……ユリウス王弟と彼の従者がいた。


……いつの間に、このような小規模な会を開くことを合意していたのだろうか。


姫様はユリウス王弟の対面の席に座った。


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