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王女の戯  作者: 澪亜
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考察

フェリクスと交渉してから、幾分か日が過ぎた。

交流会の内装や食事に関しては、デボラから貰った情報をもとに、レリアと相談して既に方針は決定済み。


ここから先は、彼女に任せれば問題ないだろう。

……何せ、その分野でレリアの右に出る者はいない。


掃除・洗濯・料理・庭園作り等々……彼女一人で何役もこなせる。

離宮で使用人が彼女だけでも廻っていたのは、彼女の技能あってこそだ。


しかも彼女の技能は、浅く広くではなく、深く広い。その一つ一つが、その道の専門家以上の腕前。

おまけに護衛もできるのだから、本当に隙がない。


「ふう……」


息を吐いて気持ちを切り替えつつ、机に積み上げられた書類を、一つずつ手にとっては眺める。

宮中で不正に手を染めた者たちは解雇済み。


代わりに、金烏の者たちとラザールが引き入れた者たちが各役職に就いている。


これで、宮中の半分近くを掌握。……まだ半分はモルドレッド伯爵・アルヴィエ侯爵派だけど、要所は抑えているし、暫くは十分。


報告書を見る限り、随分とラザールは楽しんでいるようだ。

その証拠に、彼からの承認依頼に関する書類が、一日の間に数十枚はやってくる。

……一体、彼はいつ休んでいるのやら。


フェリクスも既に動いているようだ。

レリアに対応して貰っている交流会の準備に必要なものを、次々と手に入れては持って来てくれている。


「……し、失礼します……」


気弱な声色と共に入室したのは、セリーヌだ。

焦茶色の髪の毛は纏められていて、服は動き易そうなそれ。顔立ちは子リスのように可愛らしくて、そばかすが更なる愛くるしい印象を与える。


「こ、国内調査の件で報告に参りした……」


「セリーヌ、よくぞ来てくれた。よろしく頼むぞ」


「は、はいぃ……」


コホン、と彼女は一息吐いてから話し始める。


「ま……まず、前提ですが一昨年・昨年と不作が続いています。それでも、王都の市場で値段が保たれているのは、ヴェルナンツからの支援をそのまま王都の市場に開放しているからです。ち、ちなみに王都の品を転売することはできないよう条例が交付されていました」


「各領地は?」


「ち、力のあるところは過去の備蓄から何とか賄えていますが……そうではないところとなると、かなり値が上がっていました……」


「前者は、アルヴィエ・モルドレッド・ラガルドか?」


「は、はい。ご、ご明察です……」


「何故、王都のみに開放を? まさか王が身を捧げて得た対価だから、などと下卑た理由ではあるまい。王都の民に王交代の不満を抱かせぬために? ……否。そも、あの男が価格調整なんぞに気を遣って動くとも思えぬな」


ぶつぶつと、口から考えが漏れる。


「……あ、あの。デボラさんの推察ですが、各人の思惑が一致したからではないか、と」


「ほう?」


「ご、ご理解の通り、丁度現王が即位する前後で不作が始まりました。アルヴィエ侯爵・モルドレッド伯爵・ラガルド伯爵、共に現王への不満を抱かせたくない為に、市場を通して支援物資の開放を行ったのではないか、と。……も、モルドレッド伯爵は当然、娘が折角接近できたので、その機会を逃したくない。ラガルド伯爵は、王家の忠誠で。アルヴィエ侯爵は、忠誠心と他領主の力を削ぎたい」


「他領主の力を削ぐ為、か。なるほど、三者以外の力は削げそうよな。……何か、デボラが掴んでいると?」


「現当主が倒れている今、動きはないようですが……ど、どうやら中央集権を狙っていたのではな、ないかと。く、詳しくはデボラさんにお、お願いします……」


「王の足元が弱いが為に、力の集中を狙ったか。だが、諸刃の剣よなぁ、あの男では。……と、すまぬな。本題に入ってくれ」


「はい。不作の原因は、気候です。例年より一年を通して寒かったとの証言と記録があります。土壌に関しては、各地を回りましたが、むしろ非常に豊かでした」


主題になると、彼女の声色がそれまでの弱気なそれから、ハキハキと聞き取りやすいそれへと変わった。


「なるほどなぁ……」


「小麦に関しては、寒冷地用の品種を研究していましたので、それを育てさせたいと思います。並行して、野菜に関しても幾つか根菜類の中で寒さに強い品を試します。既にラザールさんには共有済です」


「ふむ、そうか。……民の胃袋を掴むことが急務故、即進めて欲しい」


「は、はい。あ、それから……多分、魔石が採れそうな山脈を見つけたのですが……」


彼女は、土に愛されている。

下手な表現かもしれないが、そうとしか言いようがない。


そしてそれ故に、土地を回ればその土地がどのような状態なのかを瞬時に把握する特技を持っていた。

更に本人も植物が大好きで勤勉な為、こうして研究者への道を突き進んでいるのだ。


加えて、土からの愛は土壌把握に留まらず、鉱石の有無も大体分かるという技能を与えていた。

つまり彼女が魔石はあるというのであれば、十中八九そこにあるのだろう。


「なんと、魔石がか。どの領地か?」


「イベール子爵領です」


「ああ……令嬢に一度会ったことがある。もう少し彼女と接近してから、調査と採掘を持ちかけてみるかな」


それから彼女は一通り報告を終えると、部屋を出て行った。



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