外出
それから謁見の間を下り、案内された先は離宮。
誰もいない、静かな空間だ。
「……姫様」
私に付いてフレール王国まで来てくれた、レリアの声。
「感知できる範囲で、周囲には誰もおりませぬ」
その言葉が引き金となって、笑いが溢れた。
「ふふふ……ふふふっ。あははははっ」
第三者が見れば、気が触れたとでも思うだろう。
婚姻した途端、夫からは愛さない宣言。
しかも、相手は意中の相手を引き連れて。
母国は頼れない。
頼ったとしても、黙殺されるだけ。
あるいは寵を得られぬ不出来な妃と、罵られるだろう。
そんな、孤立無援な状態。
客観的に見ても、悲惨な状況であることは間違いない。
「阿呆よな。……何が、新天地か。何が、新たな生活か。結局、辿り着くのは離宮よ」
……知っては、いた。
夫となる男に、意中の相手がいることは。
それでも愛はなくとも、国を背負う王族同士、信頼し尊敬し合う夫婦になれば良い。
夫が愛する人を、側室として据えるのも吝かではない。
そう、思っていた。
けれども、まさか……。
まさか、覚悟を決めて入国してみれば、この対応!
あまりにも、予想外。
予想外過ぎて……だからこそ、おかしくて仕方ない。こんなに笑うのは、いつぶりのことか。
「のう、レリアよ。妾は、確かに受け取ったぞ。皆の妾に対する思いを。祖国には邪魔者として片付けられ、嫁ぎ先でも不要と思われる始末。なれば、こそ。最早、妾も自由にして良いということであろう?」
「左様にございます」
突然笑い出した私を見ても動じることなく、レリアは淡々と答える。
「ふふっ。楽しみであるな。皆に、現状を伝えておけ。いずれ、存分に働いて貰うとの言も付けるように。それから、この国の状況をつぶさに妾に報告せよ」
「畏まりました」
「では、妾は少し出かけてくる」
それから彼女に手伝って貰って、重いドレスから動き易い服へと着替えた。
そして、変装のために髪と目の色を変えた。
髪は金から焦茶に。眼は翠から髪と同じく茶色に。
「いってらっしゃいませ」
全ての支度を終えると、離宮の窓から飛び降りて街へと向かった。