反省
「……レリア」
側に控えていたレリアに声をかける。
「茶会は、あれで良かったか……?」
「……恐縮ですが、ご質問の趣旨が理解てまきません」
静かに彼女が頭を下げた。
「皆、妾を殊更に怖がっていなかったか?」
「姫様のご威光が如何なく発揮され、大変宜しいことかと」
「むー……もう少し、こう……和やかな雰囲気を、と思っていたのだけど」
そう呟けば、パチクリとレリアが目を瞬く。
そんなに驚くようなことを言ったのか。
「姫様に悪戯をしかけた愚か者たちに、警告を出したかったのだと理解したのですが……?」
「まさか。あのような悪戯、考慮に値せぬ。妾は、あくまで……そう、あくまで穏便に顔を売ることを目的と考えていたのだが?」
思いっきり、レリアは溜息を吐いた。
「……姫様。後者は叶ったでしょう。あの場にいた誰もが、姫様を忘れることなど出来はしません。しかし、前者は……」
「……やはり、そうか。どことなく空気が重かったかのような気がしていた」
「姫様、ご自覚下さい。貴女様は、ヴェルナンツ王国の第一王女です。あの身の程を弁えぬ女のせいで、御身に相応しい権利を十分に享受できなかったとしても、姫様が王女ということは覆りようのない事実であり、一端でもその権利を享受されてきたのです」
「ふむ」
これまで、ヴェルナンツ王国で表舞台に立つことはあまりなかった。
それもこれも、王妃の策略によるもの。
……とは言え、その状況に対して思うところはなかった。
いかんせん、生まれた時からルナの記憶を持つ私にとって、王族の暮らしは違和感を感じるものだったからだ。
ソレイユはルナの頃のまま変わらない……そう、思っていたのだけど。
産みの母が存命だった頃は、一応、至極真っ当な王女としての生活を送っていた。
母亡き後は、そうと扱われなくなったけれども……それでも、私はその後も王女として生きてきた。
……そうして、王族として人に傅かれる生活を送り続ければ、多少なりとも王族らしくなるものなのだろうか。
「加えて、姫様に引き継がれた知識の中には歴代王のものもございます。当然、社交や外交に関するものもその知識が多く残されているものかと思料します」
「つまり……?」
「姫様の雰囲気は慣れた身からすれば驚くこともございませんが、慣れぬ身からすれば他国の王と対面しているかのような緊張感と畏れを感じたのでしょう」
「やはり、恐れられていたか」
「いいえ、『恐れ』ではなく『畏れ』です。自然と首を垂れたくなる存在感を、姫様はお持ちなのです。それを威圧と捉えるかどうかは、人それぞれでしょうが」
「むむむ……存在感、か。そんなもの、意識したこともなかったぞ。……いずれにせよ、当初の目的は達成できなかったな」
思いっきり溜息を吐く。
「リゼットとフランシスの動きを監視するようデボラに伝えよ」
「何か動きがあると?」
「うむ。リゼットは、恐らく自らが中心に立たねば気が済まぬ。本人の気性どうこうというより、あやつの立場がそうあれと追い立てるであろう」
「ああ……王からの寵愛など、頼りないものということですか」
「左様。妾が捨て置かれた王女であれば良かったのであろうがな」
思わず苦笑する。
そもそもで、ヴェルナンツ王国の王女である私が、この国に嫁いできたことが原因。
そこに私の意思は一切なかったとは言え、一個人としてはリゼットに対して心苦しさを感じることは確かだ。
……フランシスには一切同情していないが。
「畏まりました。念の為、守りも強化しておきます」
毒を仕掛けてくることさえしなければ、私も大人しくしていられたのに。
「うむ、其方がそう言ってくれるのであれば安心じゃ」
それから、レリアは私の着替えを手伝って部屋を退出して行った。




