表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女の戯  作者: 澪亜
24/38

◆茶会2

太陽の光を浴びて輝く金色の髪。

周りを彩る新緑よりも深くて美しい翠の瞳。

真珠のような肌。

顔立ちはこれまで見てきた誰よりも美しく、何なら芸術家が精巧な人形を作ったのだと言い出したとしても、納得してしまうほど整っている。

細身だけど、不健康さはない体には美しいドレスが……あれ、ちょっと待って。

あのドレス、虹糸で出来ているのではなかろうか。


虹糸とは、虹蝶が生み出す糸。

虹蝶は上級のハンターでも易々と踏み入れることのできないような場所らしく、普通の人は一生かかってもお目にかかれない。


ましてや手に入れるとなると、ドレスを作るどころかハンカチーフぐらいの布面積でも困難極まる。

金を積めば、という話ではない。

そもそもで、極端に流通していないのだから。


「あ……いえいえ、時間ピッタリですわ」


リゼット様は引き攣った顔で否定した。


「それは良かった。そこが、妾の席かや?」


「え……ええ、そうですわ」


ソレイユ様は空いていた席に腰を下ろす。


「皆は既に知り置いているであろうが、妾はヴェルナンツ王国の第一王女ソレイユ・ルナ・ヴェルナンツである。今日、ここで皆と顔を合わせることができて嬉しく思うぞ」


「り……リゼット・モルドレッドですわ。今日、ここには私の親しいお友達をお呼びしておりますの」


「そうか。ならば、リゼット。妾に皆のことを紹介してくれぬかや?」


……この場の主役はソレイユ様に移っていた。

リゼット様のホストとしての役回りを奪っている、という訳ではない。

むしろ、ソレイユ様と皆を繋ぐという何とも開催者らしい行動を取ら『されて』いる。


緊張した面持ちで皆を順々に紹介するリゼット様と、貫禄すら感じられる様でそれを聞くソレイユ様。

果たしてどちらがこの場の頂点かと問われれば、この光景を見た者は誰しも後者だと答えてしまうだろう。


例え、リゼット様の陣営の者であったとしても、だ。

ただ一言の挨拶だけで、序列を明確にするとは……格が違う。


「ほう……イベール子爵領は、確か北方にある故夏でも涼しいと聞いたことがあるが」


「は、はい。仰る通りです。フレール王国の中でも北部にある地ですので、夏でも長袖で過ごせる程には涼しいです。ただ、王都からはかなり距離がありますので、もう少し南の地の方が旅行には適しているかと」


「そうか、そうか。ヴェルナンツ王国の都では滅多に雪は降らぬ故、機会があれば雪を見てみたくての」


「それであれば尚更イベールよりも南の方が良いでしょう。イベールは一度雪が降ってしまうと、雪に閉ざされてしまう地ですので」


「ふむ、なるほどな。流石に雪深いとなると、簡単には訪れられぬか」


クスクス、と楽しそうにソレイユ様は笑った。

何が面白かったのかは分からないけれども、とりあえずご機嫌を損ねなくて良かったと思う。


「……のう、リゼット。妾は、恐ろしいかや?」


「は……」


「其方含め、この場にいる皆に怖がられているような気がしてのう。何か、理由でもあるのか?」


スウッと、ソレイユ様が目を細められた。

ただその表情を浮かべただけで、場が凍る。


どんなに隠そうとも、心の内に秘めた真意が暴かれそうな鋭さが、その視線にはあった。


確かに私を含め皆が、淑女としてはあるまじき姿を晒している。

その理由は、ソレイユ様の纏う風格だ。


自然と首を垂れたくなるようなそれは、嘘偽りを許さないと言われているかのよう。


特にリゼット様に近い人たちは、普段こそ何とも思っていないだろうに、ソレイユ様の風格に圧されて、リゼット様の嫌がらせを咎められることを恐れているようだった。


今のソレイユ様の問いも、リゼット様の嫌がらせに気がついていて、敢えて問いかけているのだと勘繰ってしまう。

何人かは、ソレイユ様の問いに僅かに体が反応していた。


「大国ヴェルナンツ王国の王女様に、粗相がないかと皆気が気でないのでしょう」


「ふふふ……まあ、良い。其方がそう言うのであれば、そうなのであろうよ。……今回は、交流が目的なのであろう?」


……またもや、何か他の意図があるのではないかと、ついつい勘繰ってしまう言葉選び。

ちなみに私には、『今回は交流目的みたいだから、詰まらない悪戯も見逃してやっても良い』と聞こえた。


「ええ、勿論そうですわ。ほほほ……」


どうやらリゼット様も私と同じ解釈だったらしく、笑っていたけれども、僅かに顔は引き攣ったままだ。


「ならば、妾から皆に贈り物じゃ」


ソレイユ様は私たちの反応に気にすることなく、傍に控えていた侍女に声をかけた。

彼女は心得たと言わんばかりに頷くと、そのまま荷物を持って近づいて来る。


そうして配られたのは、小さな小さな箱。

恐る恐る開くと中には石が入っていた。


「これは……」


「ハンカチーフじゃ。今日の記念に、とな」


刺繍も何もない。

けれども、これが虹糸で織られたハンカチーフだということはすぐに分かった。


何人かは表情が変わる。

まるでソレイユ様を攻撃する糸口を見つけたと言わんばかりの、酷く冷めた目と歪んだ笑み。

……多分、虹糸と見分けられていないのだろう。


私の家は、偶々領地が紡織が盛んだからこそ知識として持っているが……そうでなければ、実際に持たない限り判別はつけられない。


「まあ、誠にありがとうございます。ソレイユ様より素敵なハンカチーフを頂けて、大変光栄ですわ」


そんな彼女たちを止めるように、リゼット様が一番に口を開いて礼を告げた。


「妾のドレスと同じ生地とは、安直過ぎたかと心配していたが……気に入って貰えたのであれば良かった」




……その後、普段の茶会以上に表面上は和やかなまま終わりの時間を迎えた。

尤も、私の胃は全く平和ではなかったが。



けれども、収穫はあった。

ソレイユ様の認識を、改めなければならない。



恐らく茶会に参加していた面々の内何人かはそう考えた筈だ。

……帰ったら、領地にいる父母に連絡を入れよう。

ああ、けれどもその前に……体に優しいハーブティーで休憩したい。

そんなことを考えながら帰路についた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ソレイユ様、絶対にケンカを売ってはならないレベルの経済力を見せつけましたね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ