◆茶会
その日、私は憂鬱な気持ちを押し殺してリゼット様の茶会に出席した。
私はイベール子爵家の一人娘。
本来女性は爵位を継げないけれども、子どもが女子しかいない場合、特例で繋ぎとして爵位を受けることができる。
言い換えれば家の存続のために婿養子を取ることが必須だから、フランシス王を廻る女性の争いには参加していない。
遠くから眺めているだけだったおかげで、こうしてフランシス王の寵愛を受けたリゼット様にお呼ばれされる機会を得ている。
……『おかげ』なのか、『せい』なのかは非常に悩ましいけれども。
女だけの華やかな茶会。
けれども外見とは違い、中身はドロドロとした醜く陰湿な茶会。
リゼット様に近づきたい茶会参加者の中で争うこともあるし、参加者が一致団結して茶会に呼ばれていない女をターゲットにして扱き下ろすこともあるし、リゼット様自身が気に入らない人物を呼びつけて嫌味をぶつけ続けるということもある。
いずれにせよ、マウントの取り合いだ。
よくぞやるわ……と、毎回参加しては呆れる。
それと同時に、茶会参加者として私も彼女たちと同類に見られるのかと思うと気が滅入る。
けれども何より気が滅入るのは、呆れている癖に、茶会を断る勇気も止める勇気もない自分の弱さを突きつけられることだ。
本当に何のために来ているのだろうか。
「リゼット様、本日のドレスも美しいですわ」
「本当に。リゼット様にしか着こなせない、特別なドレスですわね」
リゼット様を持ち上げる声が、あちらこちらからあがる。
そりゃ特別なドレスでしょうよ……あのドレスの布地は白蜘蛛の糸で出来ているものだもの。
白蜘蛛の討伐難易度が見直されて、糸も値がつい最近上がった筈だから……あのドレスで、多分私が着ているドレスの三着分。
私も一応、王宮を訪れる為にそれなりのドレスを仕立てたのだけど。
「まあ、ありがとう」
ニコリとリゼット様が微笑んだ。
「そう言えば、ヴェルナンツ王国からの客人がいらっしゃるんでしたっけ?」
「あら、おかしいわね。もう少しで開始時刻なのだけど」
「大国の姫様は、私たちと違う時間の中で生きているのかしら」
「まあ、羨ましいこと。一体どれぐらいゆっくりなのかしら」
クスクスと女性の笑い声が耳に届く。
こういう催し物は、位の低い人から会場入りするのが暗黙のルール。
そういう意味では、ソレイユ様が一番遅いのは当然のことといえば当然のこと。
何せリゼット様は、王の寵愛を一身に浴びているとはいえ伯爵令嬢。
対して、ソレイユ様は自国ではないとはいえ、隣の大国であるヴェルナンツ王国の王女。
それ故に、ソレイユ様が一番遅いのは当然のことなのだけど……どうせ、リゼット様が間違った時刻をソレイユ様に教えたのだろう。
彼女が気に入らない相手にする、嫌がらせの一つだ。
流石に隣国の王女とはいえ、連絡のない急なキャンセルや大幅な遅刻は失礼に当たる。
ましてや、彼女はこの国で地盤を固めることができていない。
恐らく今日の茶会が決定打になって、彼女のこの国での名誉は失墜するだろう。
……本当に、えげつない。
そんなことを考えつつ、目を閉じて溜息を吐き、心を落ち着かせる。
ふと目を開けリゼット様を見れば、何故か彼女は顔を強張らせていた。
「む? ……遅かったか?」
彼女の視線を辿ると、美しい女性が立っていた。




