招待
「……リゼットから、茶会の案内?」
離宮に戻って次の日のことだった。
久方ぶりに惰眠を貪ろうとしたところで、嫌な報せ。
思わず、眉に皺が寄ってしまう。
「はい。招待状はこちらです」
嫌々レリアからその手紙を受け取った。
「一週間後、か……。予定はある訳でもなし、参加せねばならぬか」
「気が進まないようで」
「それはそうであろう。どうせ、リゼットが自身の影響力を妾に見せつけたいが為に開くものであろう? 美味しい茶も菓子も、つまらぬ会話で台無しよ」
「では、お断りに?」
「断る建前も思いつかぬし、逃げたと噂されるのも面倒じゃ。ここは顔合わせと思って、行くしかなかろう」
思いっきり溜息を吐いた。
このストレス、後でハンター業務に勤しみ発散させよう。
「開催時間と場所は、調べておいてくれ。本当にこの招待状に書かれているもので合っているのかを、な」
「畏まりました」
「それから、手土産は必要よな。……フェリクスに伝えて、ハンカチーフでも手に入れておいてくれ」
「はい。すぐに連絡致します」
それから実務机に向かって、返事を書く。
さしたる内容でもない為、すぐに作業は終わった。
「では、返事を頼む。二、三日寝かしてから渡してくれ」
それからソファーに戻って、思いっきり寝っ転がる。
ヴェルナンツ王国にいた頃と違い、フレール王国では何の立場も与えられていないおかげで、何の責務もない。
その代わり予算の手当もないが、その点については、これまでの蓄えとハンター稼業で賄うことが可能だ。
面倒な輩に絡まれることに目を瞑ることができれば、この国に身を置くのは楽で良い。
……その面倒な輩、というのが非常に厄介ではあるが。
「……出たとこ勝負しかない、かな」
ヴェルナンツ王国の義母は、私が惨めに暮らすことがお望み。
リゼットやモルドレッド伯爵、それからフランシス王も同様だろう。
ならば呪いが解けるまでは望み通り惨めに大人しく過ごして、呪いが解けたらさっさとトンズラするというのが最適解のような気もするが、あまり大人しく過ごしすぎると今度は命の危険もある。
実際、リゼットも毒物をプレゼントしてくれた。
そもそもフレール王国から逃げて身を隠すということも考えられるけど、義母の行動が読めない。
呪いを利用して私をヴェルナンツ王国に強制的に帰還させ、王が定めた婚姻から逃げたことを理由に処刑するという線が濃厚だけど。
ならば一層のことフレール王国を堂々と牛耳るという案もあるけど、万が一にでも義母の耳に入れば、呪いで抑えつけてくるだろう。
アルヴィエ侯爵家がどう動くか、これが読めない。
義母と繋がる家であり、それが故に彼らの動きは私の呪い発動有無とワンセットだ。
一方で、私をフレール王国の王妃にと求める家でもある。
「いずれにせよ、とにかく先ずは呪いを解くべきなのであろうな」
ポツリと呟いた声は、静かな部屋に冷たく響いた。




