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王女の戯  作者: 澪亜
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御礼


それから、屋敷内はお祭り騒ぎだった。

やっとそれが収束したのは、日が暮れた夜。

クロエが疲れて眠りについた後、私たちはカミーユに連れられて応接室の椅子に座っていた。


「娘の為に、本当にありがとうございました」


開口一番に、カミーユから再び礼を告げられた。

今日何度目になるか、最早分からない。


「もう、礼を言うのは良い。……それで、今後のことであるが」


「勿論、ソレイユ様にもソフィー様にも礼を尽くさせて頂きます」


「あ、いや……そのことではなくて、クロエ嬢の病状のことよ」


「……娘の病が、何か?」


「薬によって回復の方向に向かっているが、完治した訳ではないぞ。安定するまで、定期的に薬の摂取は必要である。多めに作った故、これで足りるであろうが……万が一飲み切ってしまった場合には、エトワーゼ商会にデボラ宛の手紙を渡してくれ。薬を届けさせる」


先程調合した際に作った残りの薬を、纏めて机の上に置く。


「何から何までありがとうございます。……この薬を飲むタイミングは?」


「少しでも黒いアザが出れば、魔力の停滞が始まった証。そのタイミングで服用すれば良かろう」


「魔力の停滞は、どのぐらいの頻度で?」


「個人差がある故、確たる時期は妾にも分からぬ。……だが、暫くの間は薬の服用が必要であろうな」


「そうですか……」


「薬の服用と併せて、日課として魔力制御の訓練を行うと良い。触診した限り、クロエ嬢の魔力保有量はかなり膨大。少なくとも其方の二倍はあろうぞ。停滞が起こる理由の一つとして、急激な魔力量の増加がある。普通は成長と共に魔力の器も大きくなるが、稀にその器の成長を超えて魔力の生成がされてしまうことがある。その際に上手くコントロールができぬと、停滞が起こると言われておる」


「魔力制御の訓練……それを、ソフィー様にお願いすることは?」


「申し訳ないが、流石に無理じゃ。初歩的な訓練である故、魔力を扱う職の者に頼めば問題なかろう」


「そうですか……分かりました」


「それで、礼の話であるが」


「何なりとお申し付け下さい。あの娘は、妻の忘形見。ラガルド家の総力をあげ、必ずやご要望にお応えしましょう」


前のめりに答えた。

そうか……随分と家族愛が強いようだ。

貴族にしては珍しい、と一瞬思ってしまった自分は随分と斜に構えているのかもしれない。


「そ、そうか……」


正直呪い解除に一歩近づけたから、それで満足と言えば満足だけど……。

折角の機会だし、お願いをしてみるか。


「ソレイユ様へと妾に一つずつ。まず、ソレイユ様に対してであるが……ソレイユ様が何かお願いをした際に、協力して欲しい」


ラザールが喜びそうなお礼だな、と内心呟く。


「お願い、でございますか。やはり、この国における我が伯爵家の後ろ盾でしょうか? 勿論、どのような願いであろうとも、全力を以て対処致しますが」


「王妃にもなれぬヴェルナンツからの客人を後援してくれる、と?」


思わず、笑いが漏れた。

楽しくて笑ったのに、何故かカミーユは顔を青ざめさせて慌てて頭を下げる。


「失礼致しました。ヴェルナンツ王国の王女様に僭越かとは存じますが、国が変われば色々と勝手も異なりましょう」


「そうよな。……じゃが、答えは違う。別にソレイユ様は、王妃となることを求めておらぬ」


ポカン、とカミーユは目を丸くした。


「ソレイユ様が見た王は、婚姻の背景を理解し呑み込むどころか、王女というカードを利用する気概すら見せぬ。そのような王を、ソレイユ様がどう思われるか……。言葉を選ばずに言えば、わざわざ泥舟に乗り込みたい者などいるのか?」


サッとカミーユは顔を赤らめた。

表情が豊かというか、浮き沈みが激しいというか。


「何の責務も持たぬ客人の立ち位置は、存外心地良いと仰っていたぞ」


「で、では……ソレイユ様は、何をお望みに?」


「さあ……妾には分からぬ。白紙手形を求めるようで申し訳ないが、ソレイユ様は強制せぬ。其方が叶えられる範囲で、構わぬぞ」


「……畏まりました」


「それから、妾へのお礼は……竜を其方たちが処理してくれぬか?」


「……は?」


「薬に使う為、そこそこ血抜きはしてあるが……肉も骨も全て残っておる。だが、これを妾が解体所に持ち込むと悪目立ちをしそうでな。其方に預けてしまいたいというのが本音よ」


「畏まりました。幾ら支払えば……?」


「二千ゴールドで構わぬ。支払いは素材を売り払ってから、薬と同じくエトワーゼ商会のデボラ宛に小切手を渡してくれれば良い」


「に、二千ゴールド? ……少な過ぎます、少なくとも三千ゴールドにはなるかと」


「解体の手間賃じゃ。それに、乱暴に狩った故、完全な状態ではない。それ故、手間賃込みで二千ゴールドで妥当であろう」


普段彼らが手に入れるらしい竜の死体は、自然死したもの。そのため、完全な形を保っている物が多いはずだ。

一方で、今回私が狩った竜はストレス発散も兼ねて随分と乱暴な狩り方をしてしまった。

後悔は全くないけれども、完全体とは程遠いそれは、普段彼らが手に入れるモノほどの値段にはならないだろう。


「しかし、どうせ解体してしまうのであれば……」


「構わぬ。どうしてもと言うのであれば……今後何を願うかは分からぬが、ソレイユ様の願いを叶える手間賃と思ってくれ」


「……畏まりました。ソレイユ様からのお願いについては、我が伯爵家の総力をあげて完遂させて頂きます」


「ソレイユ様もきっと喜ばれることであろう。連絡があるとすれば、今日妾と共にいたデボラか、もしくはラザールという男が連絡役になるであろう」


「承知致しました」


「それでは、そろそろ妾も帰らせて貰うぞ」


「し、しかし……既に、夜更け。我が家に泊まって頂いた方が、安全かと」


「大丈夫じゃ。そこいらの魔物であれば返り討ちできようぞ。……妾も他に仕事を抱えている身故、今回もそこまで時間に余裕がある訳ではない」


「そうですか……娘もソフィー様に礼を申し上げたいと言っていたのですが」


「もう十分礼は告げられた。……では、これにて失礼する」


それからシリルに案内して貰った場所に竜の屍を置いて、そして私の調合時から今の今までラザール伯爵家の中を探って新しいデボラと合流して離宮に戻ったのだった。


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