調合
「ソフィー様、もうお戻りに?」
屋敷の中に入ると、すぐにカミーユのもとに案内されたが、彼と彼の横に控えていた執事は妙に驚いた様子だった。
「竜の血と赤甘蜜は確保済みじゃ。……して、頼んでいたその他の材料は?」
「十分な量を確保してあります」
「ならば良し。早速ではあるが、調合に移る。どこか、清潔な部屋を一部屋貸してはくれぬかや?」
「畏まりました。……ご案内致します」
それから、執事の案内で近くの部屋に移る。
案内された部屋は日当たりが良く、家具は机ぐらいでほぼない代わりに、埃一つ舞うことのない清潔な部屋だった。
「この部屋……普段は何に使っているのかや?」
「使っていません。ソフィー様が出かけている間に、調合用にと整えました」
「ほう、準備が良いな」
魔法で別空間に保存していた調合器具を一式取り出す。
丁度そのタイミングで、別の使用人が頼んでおいた材料を部屋に運び込んで来た。
「では、始めるとするか。……其方と、その材料を運び込んだ其方。名は?」
「私はシリルと申します」
そう言って、執事が頭を下げる。
「わ、私はドニと申します」
材料を運び込んだ従者も執事に倣って名乗った。
「そうか。では、シリルとドニ。見張りたければ、好きにせよ」
「お、お待ち下さい。念の為、ソフィー様が準備したと言う素材を確認しても?」
シリルの言葉に、始めようと動かしていた手を止める。
「ああ……そうよな。ほれ、まずは赤甘蜜」
シリルは容器に小指の先を浸して、その指を舐める。
「……確かに」
「ほう、一口で分かるか。流石はラガルド伯爵家の執事、と言ったところか。……とは言え、竜の血は舐めて変な作用があっても困るし……と、そうか」
「ひっ……!」
別空間から、竜の首より上だけを取り出す。
瞬間、シリルとドニから小さな悲鳴があがった。
「この場で、この首から採取すれば良いか?」
「じゅ、十分にございます」
「うむ」
それから、調合を開始する。
元々ルナの頃から調合は時々行っていたけれども、何代か前の継承者が王国でその道の第一人者と称されている腕前と知識量だったおかげで、今の私にとっても特技の一つだ。
紫露草は刻んで煮込む。
その間に冬赤実を擦り潰してから刻んだ雪白草を投入し、更に擦り潰した。
別の容器に竜の血と赤甘蜜を混ぜ合わせ、更に魔力を馴染ませる。
これがポイントで、ゆっくりと慎重に徐々に魔力が馴染むようにしなければならない。
竜の血は強力だからこそ、上手く和らげる為に魔力による抽出作業は必要不可欠なのだ。
最後に全てを混ぜ合わせれば、完成。
久しぶりの作業だったからか、随分と疲れた気がする。
幾つかある薬入り容器の内、一つを手に取った。
見事な赤。……成功だ。
「完成したぞ」
シリルとドニに声をかけたけれども、二人は呆けたように無言だった。
「シリル? ドニ?」
「し、失礼しました。見事なお手前に、見惚れておりました……」
「そのような世辞を言われても、何も出ぬぞ? さて、早速クロエ嬢に飲んでもらうとするか」
それから、待機していたクロエ嬢に飲ませる。
先程の応急処置は効力を失くしつつあったようで、再び腕や足に黒色が広がっていた。
それが、薬を飲んだ瞬間から綺麗に消える。
「く……クロエ……っ!」
綺麗な腕や足を確認して、カミーユとクロエが手を取り合って喜んだ。
「ありがとうございます……ありがとうございます!」
そんな二人の様子に、良かった……とぼんやりと眺めていたら、二人に手を取られ、これでもかとお礼を伝えられた。




