謁見
それから、三ヶ月後。
私は、フレール王国に向かう馬車の中にいた。
供は、必要最低限……も、いないかもしれない。
寂しい花嫁道中だ。
ヴェルナンツ王国が、如何にこの結婚式をどうでも良いと思っているかが分かる。
ゆっくりと三週間かけて、フレール王国に辿り着いた。
緑豊かな、美しい国。
その美しい景色に、自然と口角が上がる。
そうして王宮に着いた……が、この時点で嫌な予感が頭を過った。
……自分で言うのも難だが、私は一応、大国の姫。
それなのに、出迎えに王族もいなければ、使用人すら少人数。
とても歓迎しているようには、見えない。
謁見の間までも、案内の使用人が一人だった。
謁見の間では、玉座に王が座っていた。
フランシス・ド・フレール。年若い王様。
事前の情報では、十六歳の私より一つ年上なだけらしい。
顔立ちは整っていて、金の髪が美しい、まさに王族といった印象だ。
そして、彼の横に座る女性が一人。
王と同じく艶やかな金色の髪は、太陽の光を浴びて輝いている。
細身の体に、可愛らしい顔立ち。
庇護欲を唆るような姿だ。
「其方が、ヴェルナンツ王国第一王女、ソレイユ・ルナ・ヴェルナンツか」
王の問いかけに、私は頭を下げる。
「ヴェルナンツ王国の願い故、其方を迎え入れる。だが、勘違いするな。其方のことを愛することはない! 私が真実愛するのは、このリゼットのみ!」
フランシスの言葉に、固まった。
謁見の間という公式の場で、こんな馬鹿な発言をするとは!と。
この婚姻は、国同士の契約。
それも、力関係では明らかにヴェルナンツ王国の方が上。
今のフランシスの発言は、勝てぬ相手に侵略を許す隙をプレゼントしたも同然だ。
そっと横目でヴェルナンツの使者を見れば、彼らは平然とした顔をしている。
……なるほど、戦端を開く為のキッカケとして、この婚姻を結ばせたのかと思えば……本当に、私を厄介払いしたかっただけか。
むしろ、この国でも冷遇されれば良い、という王妃の底意地の悪い考えが透けて見えた。