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王女の戯  作者: 澪亜
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狩猟

屋敷を出ると、すぐさまデボラの転移魔法で移動。

おかげで、早々に目的地に到着した。


ひび割れた地面が目につく、渇いた大地。

遠くには緑で覆われた山が見える分、余計に寂しさを感じる光景だ。


もう一度、近場に視線を戻す。

所々にある亀裂は一見すると浅くて幅が狭そうだけれども、近づけば谷底までは建物の七階分ぐらいはありそうな深さだった。


「そんなに急に近づくと危ないですよ」


ずんずんと進む私の後ろから、デボラが言った。


「うむ……気をつける」


「まあ、ソフィー様なら、どうとでもできそうですが……一応、形式美ということで」


他人の耳がどこにあってもおかしくない外だからこそ、デボラは私をソフィーの名で呼び続ける。

飄々としているようで、万事抜かりないけど……。


「流石にその言い方は……なんと言うか、力が抜けるぞ」


「偉そうなことを言いますが、それだけソフィー様の力を信じているってことです」


「ふむ……そういうことにしておこう」


「それよりも、ソフィー様。先程は、何故安堵していたのですか?」


「先程?」


「病人を診てすぐに、ソフィー様が安堵している様子だったのが気になって」


流石、鋭い……と、内心舌を巻く。

彼女は帷の外側にいた筈だ。

カミーユが帷の内側に入った一瞬で、私の内心を察知したのか。


「……魔腐は、かつて妾の敵対勢力が利用していた呪。妾にとって忌むべき存在であると同時に、消え去っていてくれと願う存在よ」


千年前の因縁は、千年前にケリを付けた。

そう、信じて疑っていなかった。

……というより、ただ私がそう信じ続けたいだけなのかもしれない。


そうでなくとも、ルナの記憶は血生臭くて思い出したくないというものが大半だ。

それなのに、まさかその記憶の檻を内側から刺激するような単語を聞くことになるとは。


だからこそ、早く確かめて、安堵したかった。

魔腐は消え去っていると、ディアーブルは記憶の中だけの存在、だから大丈夫なのだと自分に言い聞かせたかったのだ。


「ああ、それで魔腐でないと分かって安心したんですね」


「そういうことよ。存外、勝手であろう?」


「勝手も何も、良いじゃないですか。結果、ソレイユ様が伯爵家の一角に恩を売れる。ラザールが、ほくそ笑みそうな状況ですよね。……それに何より、枷を解くことに一歩近づく。まさに一石二鳥ですよ」


「ふふふ、そうよな。考えてみれば、随分と楽しい状況よ。っと、いたいた」


渓谷にいる二匹の竜を見つけた。


「さて、デボラ。其方はどうする?」


「私はここで見守っています。色々と苛立つことが多くてお疲れでしょうから、どうぞお好きに」


「そうか、そうか。それは気遣いを有難う」


軽口を叩きつつ、谷底に降りる。

勿論、魔法で身体能力を強化済みだ。


「【炎拳】」


落ちる力を利用して、そのまま炎を纏わせた拳で竜を殴りつける。

殴られた竜は見事に渓谷の壁にぶつかった。

竜の激突に耐えられなかった箇所が割れ、パラパラと砂埃が落ちる。


もう一体の竜が事態を理解する前に、地面を蹴った。


「【雷剣】」


そうしてお馴染みの魔法で、竜をぶった斬る。

ドォン……と大きな音ともに、二つの巨体が地面に沈んだ。

そうして二匹ともに絶命したことを確認すると、そのまま素材を収納して次の目的地に魔法で移動した。


「……んん、確かに面倒な土地ですね」


先行するデボラが、次々と襲いかかる魔物を倒しつつ呟く。

ゆったりとした口調とは裏腹に、彼女の動きは並のハンターでは追いきれないほどに素早い。


「そうよなあ……随分と魔物が多い」


千年前と比べても、と心の内で呟いた。


デボラが目にも止まらぬ速さで魔物を討伐している。

逆に言えば、彼女がこれだけ素早く片っ端から倒しても、尽きることがない程に魔物が現れているということだった。


私たちが通った道の両端には、点々と魔物の屍が転がっている。


「千年樹は、どの辺りにあるんでしょうか?」


「もう、見えている。あの樹が、千年樹よ」


他と比べて一回りも二回りも大きな木。

そして風で擦れ合う度に、僅かに紅の発光をする葉。

それが、千年樹だ。


「ああ……」


デボラは私が指差した先に一瞬視線を滑らせ、納得したように頷いた。


「あれなら、すぐですね」


「うむ」


言葉通り、それからすぐに到着した。

樹木を削り、そして溢れ出る蜜を採取する。

後は容器が蜜でいっぱいになるのを、待つだけだ。


「人が通らないお陰で、逆に諸々素材が採り放題ですね。ホラ、あそこにあるペルの木なんか、実がいっぱい実ってますよ。あの木だけで、幾ら分になるんでしょうね」


デボラが遠くの木を指差した。

ペルの木は、人々に人気の甘い果実を実らせる。

ただ、需要に供給が追いつかず、値段が高止まりしている状況だ。

……彼女の言う通り、あの木だけで一体幾らの稼ぎになるのやら。


「それだけ人が足を踏み入れない場、ということであろう」


「そうですね。結局、この山で誰とも会いませんでしたし。……良い稼ぎの場なのに」


「命あっての物種、というであろう。……それに、人が入ることによる影響は未知数よ。これだけ魔物がいるのに、近隣の街に魔物の群れが雪崩れ込まないのは、環境に因るものという可能性もある」


「確かに、人が下手に関与して生態系が崩されたら、どうなるか分からないですもんね」


「そういうことよ」


もう一度容器の様子を見に行けば、丁度容蜜が溜まった状態になった。


「さて、そろそろ行くか」


それから、再びデボラの転移魔法で屋敷前に戻った。


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