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王女の戯  作者: 澪亜
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報告4

「リゼットとフランシスの仲が深まり始めたことで、当然ながらモルドレッド伯爵が権勢が強まりました。その状況に危機感を抱いたのが、宰相のブリュノです」


「遅くないか? そのブリュノとやらが動き始めるのが。……まあ、今更言っても栓なきことかもしれぬが」


「ブリュノの家門、アルヴィエ侯爵家に年頃の女性がいなかったことも理由の一つですが……そもそもで、リゼットとフランシスの出会いはバルコニーで偶然、ということみたいなので。そんな出会い、流石にブリュノも予見できなかったんじゃないですか」


「なんとまあ、ロマンス小説のようであるな」


「尤も……その後の女性同士の牽制やら争いやらの様子を伝え聞くに、出会いもリゼットの演出、狙ってのことじゃないかなと思いますが」


「……現実なんて、そんなものか」


再び苦笑が漏れた。


「まあまあ。……話は戻しますが、それでもブリュノが諦めずに足掻いた結果が、姫様の輿入れです」


「なるほどなぁ……大国の王女であれば、横槍としては十分か。……そのブリュノとやらにも、妾は随分と舐められたものよ」


「思惑の合致ですかね。あのババアはさっさと姫様を外に追いやりたいと思っていたし、ブリュノは外から女性を迎え強制的にリゼットとフランシスを離したかった」


彼女がババアというのは、我が母国のヴェルナンツ王国の王妃にして私の義母。

私との確執を知っているが故に、一切敬うことはない。……というよりも、敵視しているというのが正解か。


「加えて、この国は昨年一昨年と不作が続いていました。そのため、援助を受けるためにヴェルナンツ王国から王女を輿入れさせると説明すれば、反対の声はかなり小さくなるというのも大きな理由でしょうね」


「ふん……義母からすれば、妾は贈り物を送ってでも、追い出したかったということか。どのくらい援助を?」


「王都の人口分を賄うにも不足する量ですね」


「妾という口実がありながら、それか。国の人口差を考えれば、義母が吹っかけたとしか思えんな」


ヴェルナンツ王国の人口、約二千五百万人。フレール王国の人口は約三百万人。

母国からすれば、この国は一地方都市に過ぎない。


「……ならば、金銭貸付は?」


「姫様がいらっしゃるのに、あのババアがそれを許すと?」


「まあ、許すはずもないか。だが、ブリュノもよくぞ頷いたものよ。背に腹は代えられぬとて、他国にでもより良い援助があったやもしれぬのに」


「代替わりが激しく、内部でごたついているこの国に進んで手を差し伸べる国なんてありませんよ。特に王座に座っている男が、あの様子じゃあ……」


「可哀想にのう。あれもダメ、これもダメ。手札が悪くとも勝負を降りれぬ席にだけは、座らないようにせねばな」


私の軽口に、デボラもクスクスと笑った。


「ま、リゼットへの妨害という面だけを見れば、ブリュノは不利な状況を逆手に取って、よくぞ頑張ったとは思う。……が、その後の妾へのフォローが一切ないというのは、どういうことか。結局妾が嫁いだところで、リゼット一強には変わらぬぞ? むしろ反対される恋故に、余計に燃え上がっているのかもしれぬ」


「残念なことに、姫様が輿入れをする前日に倒れました」


「モルドレッド伯爵の仕業か?」


「それが、どんなに調べても痕跡がないんですよ。魔法、毒薬を含めた暗殺等々、色々洗い出しはしていますが……全く、一切不審な点は見当たりません」


「……そうか。念の為、引き続き調査は継続して欲しい。あまりにも、でき過ぎている。……仮に偶然だとしたら、フランシスは強運の持ち主であるな」


「はい、調査は継続します。……仰る通り、王位を望んでいたのであれば、邪魔者が次々と消えて幸運ですね」


フランシスが単なるラッキーボーイなのか、それとも淡々と邪魔者を始末する野心溢れる冷酷な人物なのか。

あるいは、フランシスすら駒なのか。

いずれにせよ、私も身辺に気をつけた方が良いかもしれない。


「補足しますと、ブリュノは死んでないですよ。ただ目が覚めても、体に麻痺が残り、すぐには体を動かすことはできなさそうですが」


「砂状の楼閣だな」


思わず、笑った。


「そうですね。反モルドレッド伯爵派閥は、所詮、ブリュノ個人の能力に依存していたと露呈した形ですね」


「代わりに纏める者は?」


「んー……アルヴィエ侯爵家の次男は、ブリュノの仕事を引き継ぐことは無理じゃないかなーと思いますよ。あんまり良い噂を聞かないんですよね。おかげで、派閥の人たちも、動こうにも動けない。いっそブリュノが死んだら、さっさと別の人を中心に据えるんでしょうけどね」


「ん? 長男は?」


「それが、全く表に出ないんですよ。貴族の集まりにも一切顔出しはなし。当然、色んな噂が流れてますよ。醜い顔だとか、不出来で表に出させないとか」


「ほう?」


「ですが、中にはブリュノを凌ぐ才覚の持ち主だっていう噂もあります。ただ、国に興味がない為、あちこち旅に出ているとか。おかげで、ブリュノとは不仲みたいですけどね」


「所詮は噂であるが、内容が真逆故に面白いな。まあ……いずれにせよ、この派閥争いには何ら関係しなさそうではあるが」


「どうします?」


……面白がってるな、と彼女の目の輝きを見て思った。


「どうもせぬよ。妾は動かぬ。フランシスと結婚したい訳ではあるまいし、貴族の派閥争いなど余所者には関係ないことであろ?……ま、この呪いが解けるまでは、義母の目を誤魔化すために、気楽な居候暮らしをさせては貰うが」


消極的な回答だったというのに、デボラは楽しそうに笑った。


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