報告3
その翌日。
「……よし」
支度を終えて、気合を入れる。
昨日は久々に感傷的になっていたけれども、引きずっていない。大丈夫だ。
「ソレイユ様。二人が参りました」
丁度そのタイミングで、レリアから報告があった。
「うむ、妾も向かうぞ」
私も応接室に向かう。
既に部屋には二人が待機していた。
「全く久しい感じがせぬな。デボラ、ラザール。息災か?」
「ありがとうございます!私とラザールは、変わらずです!」
ニコニコと良い笑顔でデボラが答える。
「……むしろ、ソレイユ様の方こそお元気ですか?」
彼女とは対照的に、ラザールの表情は全く動いていない。
声の抑揚もなく、人形が喋っているかのようだ。
「うむ、元気でおるぞ。……中々、笑えぬ状況ではあるが。ヴェルナンツ王国の様子は?」
「あっちには、五人残っているので、特に問題は起こっていないですよ。姫様が短期間不在にしただけで、揺るぐような無能な面子ではないですし。……尤も、姫様からご指示があれば、すぐにでも各々現職務を投げ捨てて、馳せ参じると思いますが?」
デボラは変わらず笑みを浮かべていた。
けれども、先ほどまでのそれとは違う。
目は冷めていて、黒い笑みという表現がピッタリだった。
「良い、良い。今の妾に其方らは過ぎたる面々よ。何せ、暇潰しにハンター稼業を行うぐらいしか妾にすることがない」
「……ハンターギルドも幸運ですね。未消化任務が随分と減りそうだ」
淡々と答えるラザールの言葉に、笑った。
彼の口から幸運なんて言葉を聞いても、全く喜ばしいことのようには聞こえないから不思議だ。
「だと良いが。……早速ではあるが、二人とも。報告をしてくれぬか?」
「まずは、私からです。ソレイユ様の結婚に関する人間関係からお伝えさせて頂きます。既に会ったかと思いますが、フランシス現王にはリゼットという恋人がいます」
「うむ、輿入れ当日に恋人と紹介されたぞ」
「非常識ですよねー」
「……デボラに言われるなんて、終わってるな」
「ちょっと、ラザール。それどういう意味?」
「別に、君の印象をそのまま口にしただけ」
「……後で、貴方と話し合う必要があるわね」
二人の間から一触即発の雰囲気が漂う。ただ、どちらも半分ぐらいは楽しんでいるようだけれども。
「それはさて置き、そもそもでフランシスは王位を継ぐ予定のない人物でした」
「ということは、兄か姉が亡くなったか」
「はい。二年前に兄が亡くなりました」
「ならば、リゼットは昔からの婚約者であったということか……共感はできぬが、同情に値するな」
「あ、いえいえ。フランシスには元から婚約者がいませんでした」
「ほう?」
王族にしては珍しい。
「半分は、王位継承権者を増やさないためだったんでしょうね。兄弟が年が近かったので、弟の方に先に子どもができたら混乱したでしょうし」
「なるほど。兄も足場は固まっていなかったのか」
「そもそもで前王も急死でしたので、さしたる引き継ぎもなく、頑張って固めていたところだったようです」
「なるほど、な。前王の死因に関して不審点は?」
「洗いましたが、何もありませんでした」
「そう、か。にしても、相次いで死んでいるようであるが?」
「双方病死とはいえ、罹った病は全く異なります。前王は持病が悪化したことが理由、兄は流行病です」
「なるほど……」
「話を戻します。フランシスに婚約者がいなかったもう半分の理由は、周囲が甘やかしまくった結果ですね。兄が優秀で、フランシスに王位を継がせる予定はなかったんでしょうけど」
「王位継承争いを懸念して、表向きのみそういった姿勢であれば問題はないが…カモフラージュのためではないのであろう?」
「調べた限り、裏で厳しくされていたという証言は、一切ありませんでした」
「面倒な……。先のことなど、誰にも分からぬ。本来であれば、兄に何かあった時のために備えておく必要があっただろうに」
「そうですよね。ま、フランシスにとっても良い迷惑ですよね。前王が中途半端な備えしかしなかったのがそもそもの原因ですし」
「話を聞く限り、其方の言う通りであるな」
「で、不幸が重なって王位が転がり込んだ後、フランシスが見初めたのがリゼットです」
「熾烈な争いがあったのではないか?」
女性たちが一人の男性を取り合う様を思い浮かべて、思わず苦笑が浮かぶ。
「私がこの国の貴族だったら、当時の夜会から裸足で逃げ出すと思いますよ」
「其方が? それは妾も御免だな」
「まあ、ある意味リゼットには尊敬しますよ。女性たちの戦いを勝ち抜いた結果が今なんですから」
「そうだな。……なるほど、リゼットには油断ができぬなあ」
「そうですよ。昨日、毒が盛られたとレリアからも聞きました。真面目な話、お気をつけ下さい。彼女は、勝ち上がる程には強かな方なので」
「うむ、忠告は肝に銘じよう」