報告
「ソレイユ様。二点、報告が」
離宮に戻ると、待ってましたと言わんばかりにレリアが口を開いた。
「ほう」
「一点目、宮に侵入した者が複数いました」
「この宮に、か。何ともまあ……意味のないことをと嘆くべきか、命知らずなことと笑うべきか」
苦笑が浮かんだ。
「どちらも、かと。……幸いにもソレイユ様がご不在でしたので、手を出さず様子を見ておりましたが、ソレイユ様の私物を物色していました」
「ふむ。見ても楽しくないであろうに」
私の物は、殆ど私室に置いていない。愛用品だとか保管したい物は、殆ど私かレリアの魔法によって別空間に保管されている。
逆に私室に置かれているのは、ヴェルナンツ王国から嫁ぐ時に国から支給された物ばかりだ。
ヴェルナンツ王国の威信を賭けた嫁入り道具に相応しい物ばかり……ということは、当然ない。
例えば、サイズの合っていない、或いは型落ちのドレスに使い古された道具。
使えなくもないけど、立場を思えば使うべきではないものばかりだ。
「何を持って行かれても構わぬが、何か持ち出したか?」
むしろ持って行ってくれて構わない。
再利用してくれれば、言うこと無しだ。
「否、中身を確認して去って行きました」
「ほう? 金目当てではない、か。……とすると、モルドレッド伯爵の手の者か?」
「ご明察にございます。どうやら、本当にソレイユ様が本国との繋がりを失っているのか確認したかったようで」
「ほほほ、なるほどな。……では、厚遇されているとも冷遇されているとも判別し難いように物を置いたのは良かったな」
モルドレッド伯爵と会ったその時の服を含め、幾つかはヴェルナンツ王国から支給された物以外も置いている。
それは、今回の時のような場面に備えてのこと。
「仰る通りかと。……本来であれば侵入者が触った私物は全て処理すべきかと存じますが、今後のために残しておきます」
「ほう、カモフラージュの為か?」
「はい。この手の輩は、再び現れるでしょうから。勿論、ソレイユ様にお使い頂く物は別管理しているもののみと致します。……忌々しい王国より支給された物にも使い道があって良かったです」
「義母の想定とは違った使い方であろうがな。……ところで、先程、其方は侵入者が複数いたと言っていたが、他の者も同じか?」
「否、別口です。リゼットの差金で、食器に毒を塗布しておりました」
「これまた無駄なことを。離宮に置かれている食器など、一切手をつけておらぬと言うのに。……それにしても、リゼットも中々過激よの。どのような毒であったか?」
「飲んですぐ死ぬことはありませんが、お腹を下します」
「そうか。摂取量によっては薬となりそうであるな。……それが、狙いか」
「恐らく。仮に、この宮で誰かが誤飲したとしても、碌に調査はされないでしょうし、したとしても適当な捜査では薬として処理されるかと」
「そうよな。ところで、その侵入者たちはどう処理したのか」
「オーブリーが手配した者たちは泳がせるために放置、リゼットが手配した者たちは、彼女に成功したと報告した後、秘密裏に消しました」
「成功したと舞い上がったところで、死か。中々、心を抉るな」
「手を出すべきではなかった、と理解した頃には死んでいますが。むしろ、自分の駒が突然消えたことに、あの女が気づくかが見物です」
「それもそうか。……侵入者について、良く対応してくれた。感謝する」
褒めると、レリアは静かに頭を下げて一礼をした。