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王女の戯  作者: 澪亜
10/38

教示


「……アメデ。何故、そう馬鹿正直に真正面から魔法を放つ?」


魔物と戦うディオンに、そう問いかけた。


「え……」


「ブラックスコーピオンの特徴は、俊敏性。水魔法で地面をぬかるみにさせるなり、土魔法で壁を作って閉じ込めさせたりとやりようは幾らでもあろう」


ディオンは慌てて土魔法で魔物を囲む。


「ディオンも、何故棒立ちになっている? 弓使いであれば気配を消し、敵の認識外から攻撃せよ」


「は、はい!」


ディオンが慌てて動き出した。


「カロル、其方は索敵を続けよ。今現れている魔物だけが、この森に住まう訳ではないぞ? 既にブラックスコーピオンへの勝ち筋が見えているとはいえ、否、だからこそ油断をしてはならぬ」


「ありがとうございます!」


「エリク、壁を越えてとどめを刺せ。既に獲物は、虫の息よ」


「はい!」


……今日、私は新人ハンターと共に依頼を受けていた。

ナタンとかいう中堅ハンターを摘発してから、数日後。

改めて討伐依頼に挑戦するという彼らに付いて行って、引率の真似事をしている……という訳だ。


「勝ちました!」


エリクが誇らしげな笑顔で宣言した。

皆も嬉しそうにはしゃぐ。

その光景に、釣られて私も笑みが浮かんだ。


「本当にありがとうございました!」


魔物を解体し、素材を採取しつつエリクが頭を下げた。

他の皆も同様だ。


「妾の方が願い出たこと故、礼には及ばぬ。むしろ、ハンター登録をしたばかりの妾を信じてくれたことを、感謝しているぞ?」


「いやいやいや、ソフィーさんの強さは前回よく理解したんで。……むしろ、ハンター登録をしたばかりっていうことの方が信じられないって思いでいっぱいですよ。否、ソフィーさんの言ったことが信じられないって訳じゃなくてですね……」


そう言ったカロルの目は、言葉を重ねるにつれて若干泳いでいた。


「……確かに。ソフィーさんなら、上級って言われても信じそうだ」


ディオンもカロルの言葉に同意する。


「そう! 私が言いたかったのは、そういうこと! ……です」


「買いかぶり過ぎぞ。妾の力は、全盛期に比べて大分落ちている」


苦笑しつつ、思わず正直に答えてしまった。

……事実、ルナの時に比べたら大分魔法の出力が落ちている。


ルナの時は、体が魔力によく馴染んでいた。それこそ、呼吸をするのと同じように魔法が使えていた。


それに対して、今の私は魔力量こそルナの時と同じぐらい莫大なそれを持っているけれども、何故か体に馴染まない。

まるで封印されているかのように、身の内にある魔力を認知していても十全に使うことはできない。


今のところそれで困ったということはないし、魔力の出力不足は歴代のルナの継承者たちが培ってきた技で補っている。


「……全盛期、ですか? 何か、あったのですか?」


「エリク。失礼よ」


エリクの問いに、アメデがすぐに反応した。


「構わぬ。その昔、病で倒れたことがあってな。以来、昔よりも技にキレがない。尤も、それを補える力がある故、問題はないが……少し、もどかしく思っていたのかもしれぬ」 


嘘は言っていない。

かなり昔、ルナの時に病で倒れて死んで、生まれ変ってから魔力の出力不足に悩まされるようになったのだから。


「ソフィーさんが、もどかしく思うなんて。今ですら、追いつくヴィジョンが全く見えないのに……」


「カロルの言う通りだと思います。正直……初めて会った時、魔物を切り倒していたところを目で追い切ることすらできませんでしたから。……そう言えば、剣術はどこかで学ばれたのですか?」


エリクの問いに、昔のことを思い出す。

何代か前のルナの力の継承者が、剣を得意としていたけれども……。


「否、剣術は知識としては知っているが正式に学んだことはない。アレは、魔法で身体能力を底上げし、力押しで討伐したまでよ」


継承者が覚えたことは知識としては受け継がれても、体に染み込ませた訳ではない。

それ故に、どう動けば良いか頭では分かっているのに、その通りに体が動かなかった。

魔力で補ってゴリ押している、というのが正しい現状認識。

継承の能力も万能ではない、ということだ。


「故に、エリク。すまぬが、妾は剣術を教えることはできぬ。こうして魔物との戦い方を教えるぐらいぞ」


「いえいえ! こちらとしては、それで十分です」


それから、皆でギルドに戻る。

今回はちゃんと自ら戦って達成したことが嬉しかったのか、四人とも晴れやかな表情だ。


けれどもギルドに入った瞬間、重苦しい雰囲気に包まれた。

やけにギルドにいた面々が、ビクビクしながら伺うようにこちらを見ているせいだ。

……前回、脅しが過ぎたか。


「ソフィーさん、今日もありがとうございました」


「うむ。引き続き精進せよ」


「はい!」


「鬱陶しいかもしれぬが、あと何回かは引率と共に行った方が安全であろう。もし妾を呼ぶのであれば、ギルドカードを通して連絡をしてくれ」


ギルドカードは、魔道具の一種。

電話のように、離れた位置でもギルドカードを通じて会話ができる優れ物。


ギルドカードさえ持っていれば誰彼構わず連絡できるというものでもなく、予め連絡先を交感する必要がある。

『交感』とは、自身のギルドカードに連絡したい相手のギルドカードの魔力の波長を覚えさせることだ。


あまり魔道具が浸透していないこの国で、ハンターギルドだけは、ヴェルナンツ王国のそれが利用している魔道具が使用されていた。

ヴェルナンツ王国が先陣を切ってハンターギルドを開設した際、ギルドに関するノウハウや設備を各国に提供したことが要因だろう。


そもそもハンターギルドを設置していない国もある中で、フレール王国はヴェルナンツ王国の隣国に位置し、かつヴェルナンツの薦めを断れないほどには国力の差があったからこその結果、か。

勿論、この便利さを享受できているのだから、文句なんてないけれども。


四人とギルドカードを交感し、それから別れて離宮に戻った。

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