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「それはとっても小さなわがまま」

 父さんがかなり大雑把な性格だとはいえ、所有物になった等の話はどうあってもややこしいことになる。


 その部分はぼかして俺が冬華さんの家に住み込みで働くことになったことを報告する。


 「そうか、お前もそういう年だかんな……よしっ、許した!」

 「お義父様の不安は当然だと思いますわ。ですから私が満月家として責任をもって……って、いいのですか!?」


 反対、とまではいかなくとも難色を示すだろうと冬華さんは懸念していた。


 父さんの性格を知っている俺は別に問題ないと思っていたが。


 「ああ、こいつももういい年だ。社会経験にもならぁ。それが恋人の付き人だろ? ちょうどいいだろ」

 「それは、はい、そうですが……」

 「こいつはな、まだ働かなくていいのに俺に無理させたくないって言ってお金をいつも家に入れるんだ」


 改めて明かされると、恥ずかしくなってしまう。


 一時、確かにとても貧困だった時期はあった。


 だが今は、贅沢こそできないが少しは余裕がある。


 でもそれは、父さんが探検家としての稼業が安定しているからに他ならない。


 宝探しというものは危険と隣り合わせ。


 まだ見ぬ宝は絶対に誰も立ち寄らない場所にこそあるもので……それを探求する父さんは自ずと無茶をすることとなるだろう。


 「経験長いし、何もわからない俺がいうのもなんだが、いい歳だ。やめろとは言わないけど、抑えてほしいと思っているのが本音だ」


 怪我をして帰国する姿は見たくない、という子どものわがままだ。


 「てなわけだ。普通ならうまいもん食いたい、だとか遊びに行きたい、とか言うのが子どもだろ? なのにこいつはずっとコレだ。そんな息子の初めてに近いワガママを邪魔なんてしないさ」


 面と向かって言われると、少しむず痒い。


 「じゃ、父さんはダチ公と飲んでくるかね」

 「気を遣わなくていいってのに」 

 「あっはっは! 気遣いじゃないさ。夏未の方も気になるしな、任せとけ」


 父さんはそういうと、シャツ一枚に探検用のズボンという楽な格好で外に繰り出してしまった。



 「ええ、と……」


 冬華さんは何て声をかければいいか、困っているようだ。


 「な? 問題なかっただろ」

 「それはそうだけど……」

 「冬華さんにはこの家は小さいし汚いとは思うけど……まぁ、ゆっくりしてってよ」

 「…………汚くなんかないわよ、こっちの方が……」

 「ん?」

 「なんでもないわよ! おばか!」


 どうしてか俺が怒られてしまった。


 顔を真っ青にしたと思ったら今は真っ赤だ。表情豊かだな、と俺は思う。


 「聞きたいのだけど……」

 「なんだ?」

 「夏未さんはどうして、この家に?」


 当然の疑問だろう。


 俺にとって、夏未と一緒に暮らすのは昔からだったから何も疑問は抱いていない。


 妹と一緒なのだから。 


 「あー、あいつはな。なんていうか……孤児だったんだよ」


 俺がそういうと、冬華さんは絶句してしまうのだった。

夏未に隠された過去――――。

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