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「お嬢様、(駄菓子屋で)快楽堕ち」

 放課後、約束通り父さんの前に顔を出すこととなる。


 ヘリコプターで行くと冬華さんが言い出したときは必死に止めた。


 「あら、ヘリポートがないのね」

 「そういうことじゃないよ」


 出来る限り穏便に済ませる……というのが目的で話し合った結果、リムジンとなった。


 それでも十分に目立つわけだけど。


 「お好きなお菓子とか紅茶とかはあるのかしら?」


 道中で、一等地に店舗を構える全国的なデパートに立ち寄ろうとしたのでそれも止める。


 仕方ないとはいえ、現状報告のために帰るだけでわざわざ高級品を用意していたら金銭感覚がマヒしてしまう。


 「……挨拶に行くのよ? 礼節を尽くさないと……」

 「父さんを気遣ってくれるのは嬉しいよ。でも、そんないいものを食べたらお腹を壊してしまう」

 「そ、そうなの……?」

 「そういうもんなの。ま、無断外泊したし差し入れ持っていくのは賛成だな」


 父さんが喜びそうな場所は知っている。


 運転手の爺やさんに頼み込んで、その場所に向かってもらうことに。



 「ここは……」


 リムジンが止まった場所は、家の近くにある個人経営の駄菓子屋だった。


 「駄菓子屋だよ」 

 「それは知っているわよっ!」


 お嬢様だけど知っているようだ。


 「爺やさん、少しお使いを頼みたいのですが……」


 詳細を説明すると、理解したと頷き、俺たちに代わってお使いに行ってくれた。


 「ちょっと、なんで爺やを勝手に……」 

 「執事同士のコミュニケーションだよ」


 『所有物』兼『執事』兼『彼氏』……肩書は使いようだ。


 「爺やさんが帰ってくるまでにこっちも買おうか」


 店に置かれている小さな篭に、手あたり次第美味しそうな駄菓子を入れていく。


 「ちょ、ちょっと待ちなさいよー! これからお父様のところへお土産を持っていくのよね!? これじゃあ……」

 「父さん、こういう菓子が大好きなんだ。豪華な菓子なんかより、こっちの方が絶品なんだ」


 俺がそう言いながら、父が好みそうな菓子と自分の好みのものを購入しておく。


 「やっぱり駄菓子屋で散在すると心躍るな」

 「いっぱい買っても千円もしないんだけど……本当にいいのかしら……」


 何度か説明しているが、変に真面目なのか彼女は悩み続けているようだ。


 

 そうこうしていると、爺やさんがビニール袋に目的のものを仕入れて帰ってくる。


 「爺やさん、協力してもらってありがとうございます」

 「なんのなんのですぞ。親孝行をするというなら、この爺やも一肌脱ぎますので」

 「爺やが不思議にご機嫌だわ……あまり表情を出さないのに、珍しい」


 こればかりは俺でも冬華さんでも買えないからね。


 「この私でも買えないだなんて、一体どんな極上品なのかしら……」

 「お確かめください」

 「そう、これこれ」


 袋の中の冬華さんはぎょっとする。


 「こ、これ、ビールじゃないのよ!? それもそんなに高くない……」 

 「そう、お酒は僕らには買えないからね」

 「お、おばかっ! よりにもよって安いのだなんて……」

 「ま、見てなって。値段じゃないんだ、こういうのは」


 俺を信じられない、という表情で見てくる冬華さん。


 やはり価値観の違いだろうか?


 だけど、住む世界が違い過ぎて俺を軽蔑しているとかいう感情は全然ない。


 「でも、一番安いってよくわかったね」

 「……と、当然よ」

 「父さんはなんだかんだでこういう安酒が好きなんだ。昔一回、なんかの機会でめちゃくちゃ高い酒を貰って飲んだ時は普通にお腹壊して倒れた」

 「嘘でしょ……」


 なんて話をしていると、買い出しは完了する。


 爺やさんは俺たちを乗せ、再びリムジンを発進させた。

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