マイ、友達の存在に助けられる
「明後日かぁ…、何か手土産を用意した方がいいのかなぁ…、うぅぅ…」
二日後にキーアさんのお父さんにご挨拶することになっていて、何を用意するか悩んでいる。
「怖い人じゃないといいなぁ…、キーアさんのお父さんだしそれはないと思うけど…
はぁ…、とりあえずそれは明日考えよう、そろそろ行かないと!!……ヨシ!…行こう…かな?」
今日は取引のためにいちに町へ行く日だ、何度も意気込みやっとのことで腰を上げると広い庭に馬車を出して乗り込んだ。
聖域に到着して降りると、お城に向け深く一礼をする、マイはいつも移動だけに使わせていただく時には律儀に行っているのだ。
「マイさん、自分の町へ行きますね」
珍しいことにここ聖域の主のテリア様が声をかけてきたのだ、偶々帰ってきていたのかな?
「は、はい、これからお菓子の材料購入です」
「そうですか、頑張って下さいね♪」
「は、はい、……?」
何も特別なことじゃない、ましてや変なことなどでは全くないいつも通りの出会った時の挨拶、なのだが微かな…ほんとに僅かだがテリア様の言葉?態度?雰囲気?…何か分からないが違和感を感じていた。テリア様を少し見てみるが、いつも通りのかわいい笑顔でニコリとしている
「マイさんからそんなにも見つめてくれて嬉しいです♪」「あ…」
テリア様に言われて恥ずかしくなり目を逸らしてしまう、「ふふ♪マイさんかわいいです♪」
「はぅ…、お、遅れてしまいますので行ってきますね…」「はい♪いってらっしゃい♪」
マイは馬車に早足で戻ると頭をテリア様に向けて下げ移動していった。
「・・・私はお城にいますからね」
残ったテリアはそっと呟いたのだった
マイがいつも仕事の前に訪ねる、師匠のお店ヲかしの前に辿り着く
「おじいちゃんいないのかな?」
お店には誰もいなかった、少し残念に思いながらもお仕事をしてこないとと切り替えた。
「はぁ…終わった…、またもう一回か…」
伺うのは二件、いまひとつ終わらせて精神力を回復させている最中である。大きく深呼吸、両手を強く握り締めてヨシ!っと決意して再び取引先のある商店街へと向かう・・・・。
「そういえば、ヲかしのお店の事だけれども聞いたか…?」
取引も終わり、そそくさと退散しようとした時だった、相手の方が神妙な感じでそんなことを言ってきたのでいつもだったらどんな話しでも逃げてしまうのだけど足を止めて相手の方を見て首を横に振った
「そっか…」
「な、何かあったの……でしょうか?」
とてつもなく嫌な予感がして聞くのが怖かった、相手の方は真剣な顔になる
「・・・あそこの主人だけど少し前にな…、ウチも詳しいことは知らねぇが兵士の人が指示が飛んでいた、この辺で少し騒ぎになっていたんだよ」
あぁ、予感が当たってしまったと血の気が引いていくのが分かった、立っているのも辛い…、心構えが無ければとっくに崩れていた
商店街の人たちはマイがずっとあの場所に居たのは知っているので話すことは怖かったが、しっかり伝えてくれた
「そ、そう…ですか…、……お、お、教えて…くだ…り、あり…ます」
「・・あぁ…」
相手の人は余計な声はかけない、かけてはいけないと唇を噛み締め心配する
マイはとぼとぼと「そんな…」とか譫言を呟きながらお店の方に歩いて行く、お店に着いて虚ろな瞳で曲がった文字で書かれている「ヲかし」を見るとツーっと涙が垂れてきた、そのまま涙も拭わずにお店に入りおじいちゃんがいつも座っていた場所まで移動して座ると涙が溢れでてきて会計する台に突っ伏して涙がかれるまで泣きじゃくる、目の前が真っ暗だった、覚悟はしていたが現実を目の当たりにすると感情の方ばかりが溢れ出てきて理性がきかなかった。
お店はそのうちに片付けられるだろう、夕方になって声をかけられた
「ん…あ…」
「大丈夫ですか?」
「ひゃっ!…はい、大丈夫です…」
マイに声をかけたのは警備兵の人、いつの間にか寝てしまっていたマイの目は赤く、起きると直ぐに思い出しジワリと滲んでくる、警備兵は困惑してしまい再度問いかけるが言葉が出ないようだった
落ち着いて話せるようになったのは暗くなってからで警備兵も少し疲れた様子を見せる
警備兵の人がマイに何故ここに居たのかを尋ねるのでしどろもどろに答える
「そうでしたか…、しかし大変申し訳ないのですがお帰りになられた方がよろしいですよ」
「はい…わかって…います」
警備兵はいたましげに気の毒だとは思うが仕事は仕事、関係者とわかっていても、家族でもない者へは情報は漏らせないし、こんな場所にずっと居させるわけにもいかないと進言する
マイは少し落ち着いてきていたので家に帰ることにする、馬車を出して移動するとそこはいちに町の入り口、「あれ…?」不思議に思いそのままもう一回、作用すらしなかった「なんで…」
今のマイに想像力がなくなっていて上手くいかない、幸い一回目が少し作用したおかげで周りには認識されていないは良かった
「うぅぅ…」また涙が出てきた、悪い考えばかり浮かんでくる、その中には一番考えてはいけないこともある、ぐるぐると渦巻く負の思考。その思考を中断させたのは空腹だった、今日は朝以降は何にも食べていない
「お腹は空くんだよね……ヨイショ…」
隣に置いていたバックを膝の上に乗せて、自分で作ったご飯を出して食べる
小さいお菓子やちょっとした食べ物を空間魔法付き鞄に入れるのは初めからだが、きちんとした食事となるものを持ち運び始めたのはキーアさんがお店の料理を出し入れしているのを見てからである
「ふふ♪変な気分だよね」
なんだか分からないが少しだけ元気が出てくる、食べ終わると自分の作ったお菓子を出してみる
「おじいちゃん…」
トゥレス国に戻らない考えもあった、おじいちゃんの地となったこの場所をもう離れる必要もないんじゃないじゃないかと、しかし・・・
「おいしい♪。・・・。違う…よね!
憧れのキーアさんにまた悲しまれちゃうよ、友達だもんね。
レティさんに怒られちゃうよね…、うぅ怖いなぁ…、でも可愛い。
シュエリー様に喜んでもらえなくなっちゃうよ…、あんなに気に入ってもらえたんだもん」
一人一人顔を思い浮かべて一人百面相をしている、そして鞄から黒い珠を出す
「私は・・・・お菓子で人を!
うん・・・精霊様、ありがとうございます」
全ての巡り逢いに感謝を、おじいちゃんの冥福を祈る、暫くしてそっと目を開くと、そこは明るくなった気がした
「頑張るよ!」
声を出して、決意を新たにする
しかし帰れないことにはと、また落ち込む。
「はぁ…船は嫌だなぁ…」
最悪、地道に移動することを考えて暗くなる、もう留まることも変な考えも微塵も考えない
もう大丈夫なのだが、どうしてだろうと理解していないようで一から手順を思い直し「これ…馬車だったよね?」と見直したり「街を思い浮かべる」とぶつぶつ言ったり、「もしかして、見限られたのかも…」と絶望していたりしていると手順を踏んだわけでもなく偶然の一致がマイを街へと運んでくれた
「あ、あれ?移動出来たのかな?」
そう馬車の中で考えていると、いつの間にか隣に聖域の主様がいた
「マーイさん♪来る予定はなかったですけれど、会いたくなって来ちゃいました♪」
「ひゃう!せ、精霊様!」
「むぅ…、マイさん(ニコリ)」
「…せ、精霊様?」「マーイさん(ニコリ)」
笑顔が段々怖くなっていくのをみて気付いた
「て、テリア様!」「はい♪」
マイはホッと胸をなで下ろした
「では罰としてお城に来てもらいますね♪」
「え?あ、あの…私明日はお店なのですけど…」
「知っています♪休みましょう♪」
「えっ?そ、そういうわ「決まりですね♪」」
グイグイとマイを馬車から引っ張り出し、ひょいと抱え上げると羞恥に叫ぶマイを運んでマティちゃんベッドで一緒に寝かされる。
翌日、恥ずかしさと散々寝てしまったマイは中々眠れずに遅くなってやっと眠れた、目が覚めるとお昼前で絶望したのだった。
*挨拶は自分の渾身作のお菓子を手土産にして喜ばれた、とても優しい人だったよ