マイの決意と不運
いちに町で生まれ育った平凡な私は、10歳の時に運命の出会いをすることになった。
町の中心となって賑わいのある商店街、少し奥側に新しくお店が出来たらしいとお父さんと買い物している時に聞いて行ってみることにした。
そのお店には「ヲかし」と曲がった文字で書かれている。まだお客さんがいないのか中は静かだなぁっと思っていたら、かわいい少女と目が合ってしまってビクリと後ろに後ずさってしまった
「マイ、どうしたんだ?」
「う、うぅん、ちょっとビックリしちゃっただけだよ」「そうか?」
お父さんは不思議そうだったがお店を見て、先にお爺さんが座っているのを見て納得したようだった。
お爺さんは何も喋らずにただ微笑んでいる、私は少し怖いなぁっと思いながらにさっきの少女の方を向くと既にどこにも見あたらないでゾッとした
お父さんは店内を少し見て家族にひとつずつと3点をお爺さんに持っていくと、お爺さんは値段だけを言ってニコニコとしていた。
そしてお店を出て家へと帰る、その時私の頭に誰かが触れたことを誰も気付かずに。
お母さんが帰ってきて、ご飯を食べた後にヲかしで買ったお菓子を食べてみたら、物凄くおいしくて感動してしまった、食感が良い、甘みがいい、他にもあるが私には分からない。
「マイどうだ?………マイ?…マイ」
「!!、、う、うん…すごく、おいしいね」
お父さんの問いかけにも気付かないほど感動して余韻を感じていた
「そうだね、今度帰りにでも買ってくるよ」
「ありがとう、お母さん」
それから数日おきにお母さんは買ってきてくれ、私の楽しみになった。
ある日、まだ少し早い時間にお散歩した帰り道、開店していないヲかしの前を通りかかった時だった、お店の裏から白い煙が上がっている、私は気になって煙を眺めていると店の入り口が開いてお爺さんが出てきて視線が重なった
「え…あ…お、おは……よう…ごだ…」
咄嗟に動くことも、挨拶しようとしたがすることも出来ずにいると、お爺さんはニコリとノンビリした声で
「おはよう、マイちゃん?だったかな?」
「え?、あ、は、はい!マイです!!」
名乗ってないはずだが、名前を知っていたことに驚いてすごい強調した口調になり恥ずかしくうつむいてしまう、そんな様子を見てお爺さんはチョイチョイと店の中に手招きして入っていった。どうしようか悩んで悩んで、待ってくれてるだろうなぁっと中に入る。店の裏の扉の前でお爺さんが嫌な顔せず待っていてくれ、更に手招きして裏に出ていく。
私も扉を出るとそこででお菓子を作っているところで、お爺さんはひとつを取って白い塊に何かを塗って渡してくれた、よく買ってきてくれるあのお菓子だ、お爺さんを見るとニコニコしているので躊躇いながらも受け取り口に運ぶ
「っ!、お、おいしい!………!です…」
「そうかぁい、よかったよ」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしましてね、いつもありがとうね」
私が行ったのは開店時だけだったが、お母さんやお父さんが行っているのを知っているんだと思った
「ほ、本当にとてもおいしいです!、こうやって作っているところみれてありがとうございます」
なんか上手く言葉が出てこないで変な言葉になってしまったが、私が興味を持てて見れた感謝と食べさせてくれた感謝を精一杯に伝えようと頑張った、それが伝わったのかお爺さんは嬉しそうに
「また来ておくれ」と口端を少しあげて言ってくれたのだった
それから私は何日かに1回は開店前の準備の時に見せてもらいに通うようになった、必ずひとつお菓子をもらえるのも楽しみで申し訳なくなるも作っている姿を見るのが楽しい、一からが見たくなり準備の早い時間から見せてもらう許可をとった時もあった、そんな私に決して邪険にせずにニコニコと接してくれるお爺さんを、他人を…身内でさえ苦手な私でも好感を感じていた。
そんなずっとずっと眺めていた時にお爺さんは私に始めからの作業をやってみる?と聞いてきた、ずっと迷惑だと思って言わなかったけれど当然のように私はやりたいと思っておずおずと首肯する、そうかそうかと嬉しそうにその日から少しずつ教えてくれたのだった。
ずっと見てきたし、料理はお母さんに代わりよく作っていたのでやり方さえ教えてくれれば出来ると思っていたけれど、思いの外に繊細で当分の間は形すらも上手くできなかった、しかしお爺さんは根気よく付き合ってくれて何年かしてかなりの出来栄えと自負出来るくらいにはなっていった……と思う。
そんな中でお爺さんは自分のこともゆっくりゆっくり日をかけて語ってくれていた。
お爺さんは若い頃は世界で名を馳せたいと思っていたが適わずに挫折したらしい、それでも普通にお金を稼ぎながら自分のお菓子作り修行をし研鑽していった、がある時、重い病気にかかり足が動かなくなってしまう、何年も何年も治療し続けやっと治った頃にはお金は無くなり、長時間の活動も難しくなってしまったという、私は涙ながらに聞いていた。
それでも生きる時までお菓子作りをして、出来れば他国でも広めてみたいと、解っている目標である。せめて生い先短いこの命をと違う町でのお店を開きたいと夢を叶えた。
「最初のお客さんが貴女でよかった」と言われ涙が溢れ出て、お爺さんに頭を撫でられると止まらなくなってしまったのだった。
マイは達成感と共に決意した、私はこの国を出ておじいちゃんのお菓子でみんなを幸せにすると
その日、ヲかしを出る時に不思議に声がした
「マイさん、頑張って下さいね
応援していますから♪」
マイはお店を振り返ると初めてお店に来た時にいた少女が凛と入り口に立って微笑んでいたのだ
「ひゃうっ!あ、あの時の霊!」
「ふふふ♪霊ですか?当たらずとも遠からずですね」「マイちゃん?」
お爺さんが心配して出て来た、その横には少女もいるが見向きもしない
「は、はい!ごめんなさい、今日もありがとうございました」
心配させないように家へと歩き出す、少女は手を振ってその場に少しいたが、フッといつの間にか消えていた。
次の日の朝にお母さんが帰って来るのをバクバクの心臓を抑えて待ちわびている、お父さんも顔色の悪い私を心配してオロオロしていた、食事の準備は終えて並べてある
「ただいま」「おかえり、お疲れさま」「・・・・・」
お母さんは様子がおかしい私に気付いているが何も言わなかった
食事をみんなで食べ始める、お父さんはチラチラ見ているが、お母さんは気にする様子もない
「あ、あの!」
食事も終盤、私は思い切って口を開くとお母さんはスっと箸を置き真剣にマイを見つめ、お父さんはそのまま何事!?と慌てている
「今すぐじゃ…ないんだ…けれど…ね?」
そう前置きをして黙る、二人はジッと待っていてくれる、そしてどれくらい経ったか深呼吸をしてお菓子作りをしていて、その道にいきたいことをぽつりぽつりと話し始めた
するとお父さんはなんだとばかりに安堵の息を吐いた
「深刻そうだから心配したけど、それならやってみればいいじゃないか」
そんなお父さんをお母さんは睨みつけた、お父さんは萎縮する
「マイが頑張っているのは知っているよ、それで続きを話して」
「う…うん」、少し話しにくくなりまた少し黙り込む、それでも話せるのはお母さんのおかげだ。私は他の国にお金を貯めて頑張りたいとやっとのことで話しきる、お父さんは絶望がやってきたとばかりに顔面蒼白になっていたがお母さんはよく頑張ったとばかりに応援すると追い風を起こしてくれる
「外じゃないとダメなのか!」とか「マイにそ(れは無理だろ)…」とか言われる、後者は途中でまたお母さんが睨んで止めていたが、十分に伝わるし自分でそれは分かっていたこと、少し悲しくなったがお父さんの言葉も受け入れて、そうしたいと意志は曲げずに伝える、それでもお父さんは受け入れられないようで気まずい空気になったがお母さんがちょっと出ててくれと言われ、私は頭を下げてお店に行ってきますと伝えてお母さん私のことなのでほどほどにと心の中で思って家を出たのであった。
ヲかしへと入るとお爺さんはいつもの席で微笑んでいる、私は安心する。お客さん多くはないが少なくもないと悪いわけでもなく繁盛しているわけでもない、だがこの町辺りでは馴染みの無かったお爺さんのお菓子の知名度がそこそこあるのは私も嬉しかった。
さて、今日も数時間の開店時間が終わると、おじいちゃんにも私の決意をゆっくりと話した。
お爺さんは初めは優しい顔が少し難しい顔になったが自分のでなく私の本心でやりたいことだと分かるとすぐにいつもの大好きなおじいちゃんになりこの技術を使うことを許可してくれ感謝されたのだった。
それから資金援助で正式に雇ってくれると持ちかけてくれる、私はおじいちゃんが心配だったが、譲る相手も使う予定もないから生活出来るだけあればいいんだよ、とっても嬉しそうに言ってくれまた泣いてしまった。
家におそるおそる帰るとお母さんは寝ていたが、お父さんはごめんなさい、と何度も謝り、協力してくれると言ってくれた、何があったのかは聞きたくない…。
その日からはとにかく頑張った、おじいちゃんはお店について教えてくれてありがたい。何が一番大変だったかは、お菓子作り?接客?交渉?計算?、いいえ違います!
大変だったのは仕入れ等でその人に会うまでの心構えを作ることでした、会ってしまい仕事の話しになれば切り替えられるのですが…はぁ…
数年間、勉強と資金調達を頑張りました。17歳もとっくに超えて立派な大人に!…なっていると自分で思えないのが悲しいな…。
これだけやったんだ!と目を次に向けた日、その夜お部屋にあの少女が現れた、驚きと恐怖、口を開くが声が出なかった
「こんばんは♪声は出さないで下さいね?」
私は首を縦に振った、少女はニコリする
「マイさん、本当に頑張りましたね♪
これは私からの贈り物です」
部屋に準備してあったバッグに少女が魔法をかけていた、その美しさに感嘆の声が漏れる
「はい、これで空間魔法付き鞄になりました♪」
「あ、ありがとうございます?」
「使い方はわかりますか?」
首を横に振ると、全て教えてくれた、しかもこれは普通の「空間魔法付き鞄」ではなく時間が経たない優れ物だと笑いながら説明してくれた、最後に危ないですから誰にも話さない方がいいですよと付け足す。
「あ、あなたは?」
その質問にふふふ♪と誤魔化した
「マイさんのひたむきなきれいな心に惹かれたのですよ♪また来ますね、楽しみに待っていて下さいね♪」と消えていった
褒められて顔が熱くなった、疑問ばかりだが嫌な感じはしない、なによりかわいかった。
「うぅ…、でもこれは嬉しい、ありがとうございます…。誰だったんだろう?騙されてないよね?
…かわいかったなぁ…」
「ありがとうございます♪」
「ひゃう!あぅ…」
姿は見えなかったが、いなくなったと思っていた少女の声がして聞かれてたと恥ずかしく、もう寝ようと、考えるのはやめて布団をすっぽりと覆い被った。
今日は遂に家を出るんだ…、寂しいなぁ…、大丈夫かなぁっと押し潰されそうだった
「マイ、頑張ってきなよ!」「お母さん…、頑張るよ!、ありがとう」
ポケットからお守りを出して宣言する、昨夜お母さんがくれた厄災を遠ざけてくれるという物だ
「いつでも、帰ってこいよ!」
「そんなこと言うもんじゃない」
「クスッ、ありがとう、落ち着いたら帰ってくるね」
あの少女のおかげで、当初の心配の半分は解消された、材料も大分持ち出せたし道中の支度もこっそり購入して仕舞っておけた、会ってお礼を言いたい!…でも少し怖い…、おじいちゃんには挨拶はしたが、最近はあまり体調が良くなくどこか上の空のところがあって、それが私の一番の心残りだった。けれどどんなことがあっても私の意志は変わらないだろう……たぶん…。
船乗り場まではお母さんが馬車を手配してくれていた、到着してすぐにトゥレス国行きの船に乗る、行き先は西側と東側行きの二つあるがあまりお金はかけられないので近い西側の方を利用する、少し高いけれど銀貨40枚。マイは知らないが国をどっちに向かうかで値段が違う特殊料金形式である。
約ひと月半船に揺られると到着した。
「あ、あ、あの!一番近い町と…その行き方を…、教えて…くだ…さ…い…」
「は、はい?、あ!はい!、一番近い街は『ナットリアッド』です」
次第に小さくなる質問を尋ねられた作業員は丁寧に答え、馬車が出ている場所を教えてくれた
「あの…、ナットリ…アッド行きの馬車に乗ります」「はい、ナットリアッド行きですね。銀貨30枚になります」「え!?」
「はい?聞き間違えてしまいましたか?、ナットリアッド行きですよね?」
「あ、あってます!…えっと…えーぇっと」
慌ててお金を出して払うとありがとうございますと馬車に乗りに行った。馬車で移動時間は一日かからない、安心安全の移動だった。「護衛付きだけど、それにしては高過ぎるよね?」、ナットリアッドの街の入り口は輝いていた、正直気持ち悪いと思ってしまうが目的を話すと用紙をくれた、決まったら書いてギルドに渡せばいいらしい。まずはお店探しだ…資金は金貨3枚も持っている、痛い出費はあったけどお金持ち気分。
・・・・え?、・・・契約…。
絶望しました…、とりあえず借りることは出来ました…とても小さいです…、月に銀貨19枚ですか?給料何か月分ですか?もしかして騙された?涙がでそうです…。
・・家は高い物だよね?、とりあえず生活用品を買おう、うぅ…砂がすごい…
後悔しました…、日用品の中でも消耗品は現地で揃えるというあの言葉を取り消したいです…
マイが、これはやばいと感じるまでには時間がかからなかった、準備も揃っていないままにすぐに申請を出してお店を開く、あの少女のおかげでちゃんとした商品はすぐに並べることが出来る、とりあえず1個ずつ並べておく
「はぁ…、まさかこんなことになるなんて…、お店も寂しいよぉ…」
「マイさん♪、開店おめでとうございます♪」
「あ…、霊の…」「元気ないですね?」
「あ、あの、バッグありがとうございました
おかげで助かっています!」
「どういたしまして♪」
「それで……こっちにも…貴女は…何なんでしょうか?」
少女は少し思考してから、周りを見る、そして何か遠くを視ているかのような素振りをする
「うーん、大丈夫でしょう?
マイさん、私は精霊です」
「・・・?、精霊・・?」
「マイさんの国では…、…守り人?でしょうか?」「……精霊?…ってあの精霊ですか!?」
「はい♪伝わりましたね♪」「信じられ…ません…精霊…様…」
マイはそれでも納得はしていた
「はい♪。マイさん!
本当に困って、限界でしたら頼って下さいね」
言葉の出ないマイに少女はひとつの行動を教えてあげた、具体的な言葉は言わずに、その時とって欲しい行動だけ伝えて消えていった。
その日はお客さんは来なかった。次の日、商品を二つ並べて、お金は隣に置いてくれるように書き置きしておく
精霊様の言葉に従って馬車だけは買っておこうと思ったのだ、一番小さい馬車と馬1頭、本当に痛い出費だ。次は調理台これが無いと新たに作れない
家に帰る頃にはお金が心許ない、今までなら、今のこれだけあれば余裕で何か月も生活出来たのに…。お店に戻るとお菓子はそのまま、盗まれることすらなく置いてあった、まだお金が置いてなくても盗まれていて欲しかったと涙を流し自分で食べた
何日かお菓子を食べながらいたが、お客さんは何のお店だろう?、これ何だ?お菓子!?、という人が数人来た程度、これでは家賃も払えなくなってしまう状況に手放すしかなくなり露店を開く方向に切り替える、しかし見ていると砂ばかり舞っていて天幕でもないと無理だと、購入し砂のかからない所にたて移動し申請し直した、移動も調理台に人手が必要でもうお金がない!、何が何でも仕入れが必要になる前に売り込まないといけないと呼び込みも始めた、が効果は…ない…、何日か頑張っていたが、もう限界との時に救世主が現れたのだった。