クエルとエレック
これは8年前の10歳の時のお話しである
「フンッ!お前はまた遊んでいるのか?暇な奴だな」 僕には2歳年上の兄と2歳年下の弟がいる、勉強を終えて部屋へ戻る途中廊下ですれ違った兄上に開口一番に嫌味を言われてゲンナリしてくる、ここで言い返せば何倍もの罵倒が返ってきて武術で訓練という名の虐待が待っているので嵐が通り過ぎるのを待つのが一番だとよく知っていた、よく毎日言葉が尽きないようだと思う。
解放されて部屋に戻ると扉の前に可愛い弟が待っていた
「兄様!お疲れ様です、また怒声が響いていましたね」
「ありがとう♪いつものことだよ
部屋に入ろうか」
「はい!おじゃま致します」
素直で可愛い弟を愛でることが僕の癒やしとなっていた
「エレック、今日はどうだった?」
「・・・いつもと同じですね」
「そっか…」
弟の頭を撫でてあげると嫌がられることなく嬉しそうにしてくれる
弟は家において必要とされる才能が無かった、全てがそこそこと教育者にも見限られて尚早ではあるが三男ということで、父上は仕方なく家を出させる宣言をなされた
兄は「当然だろ」と言っていたが、父上も母上もどんな形であれ家に居て欲しかったようだ
それにより家の中では立場無しと誰も興味を持たずに空気のように扱われていた
そんな日常を送っていたある日、市場を見ながら人の流れに触れるために腕利きの護衛一人を連れて街に出ていた、護衛の兵士も僕も一般人の格好をして帽子を被って身バレしないようにしている
あらかた頭に情報を入れて一通り巡った帰り道、とある露路を通りかかった時にそこで露店を開いている奴がいた、勿論違法で処罰対象だ
「少し見てみようか」
「報告を優先すべきです!」
そんなことわかっていたが好奇心が揺さぶられて惹かれるように護衛を説得して立ち寄ってみた
露店の主人はボロボロの服を着たいかにも生活出来なかった者という感じで護衛は顔を顰めた
僕はそんなことは感じずに並ぶ商品を見ていた、それは予想通りひどい物で、ボロボロの布や拾ってきたであろう金属やガラクタばかり、誰も買わないであろう物ばかりだが見ていて楽しかったんだ
「さぁ、帰りましょう!」
「そうだ・・ね?
おじさん、これは?」
端っこにあった錆びている大きな鳥籠を指を差して質問すると、それは鳥籠と言う。それは見れば分かるよね?
「値段が銀貨10枚って何でかな?」
他は高くて銅貨3~4枚、すると店主は言い籠もりチラチラと護衛を見ている
「ちょっと表に行っててくれる?」
「それは無理です!」
当然の答えにため息を吐きたくなるが、どうにかして離れてもらうことで妥協してもらった
絶対に他所には誰にも話さないことを約束して鳥籠について小さな声で話してもらった
それは押し付けられた物だと、そのまま露路に押し込まれて兵士に渡した人が追いかけられていったのをみたと、だからふっかけ上等の値段なんだと
「そうなんだね、購入させて頂こうか
誰にも話さないと約束するよ♪」
「はぁ…ありがとうございます」
自分でお金を持っているのでその場で払う、いかにもの顔で護衛が見てくるがこの場では何も言わないようだ、ついでに逃げた方がいいと助言しておいた、ふふっ、咎められるどころじゃないね。
護衛から怒りの視線をもらいながら携帯している布を貰いそれに包んで持って帰る
「(ガタガタ)」
「・・・」
微かに揺れた気がするね、これが貴重な物だと思っていたけれど・・
家に帰ってきて父上に報告して部屋に戻る、その前に・・
「エレック、入っていいかな?」
「!!、いいですよ」
中から鍵が開くと弟が扉を開き僕を迎えてくれた、中に入りすぐに鍵をかける
「兄様それは?」
「これは、さっき露店で購入したんだ
何かワケありな物で何か閉じ込められていると思う、解放してあげたいんだ!」
やはりそうは言っても弟の目にも空の鳥籠なのだろう、ジーっと見ているが戸惑っていた
「兄様…これ、恐らく魔導具だよ」
戸惑っていたわけではなかったことに驚いた、何か分かるみたい、少し進展があり嬉しく思っていたら鳥籠が微かに震える
「「!!」」
「今動きましたね! やっぱり何か捕らえられているんだ!
ちょっと試してみたいことがあるんだ、いいかな?」
「気を付けて下さいね」
すると弟は鳥籠に向かい地面の方にいて下さいね♪と声をかける、数秒間隔をあけると取ってとなっている場所に弱い火魔法を使う、弟は兄弟の中でとびきりに魔法の扱いが上手い、がそれを隠している
鳥籠は火魔法を吸収するかのように消し去った、やはり魔導具で間違いない、中に入っているのは魔力を保有する者だね
「んー、ダメだったか…」
「エレックのおかげである程度絞れたね、対策が取れそうだよ」
勉強していた中にも魔導具については行っているし知識は豊富だ、収納式の魔導具は大抵魔力で鍵をかけた人がもう一度魔力を流すことで解錠できる、今回はそれは出来ないのでもう一つの方法で行うことにした
僕はすぐに父上に許可を取りに行く
「父上、少しよろしいでしょうか?」
「クエルよ、何だろうか?」
「お前が何の用だ!帰れ!」
「アレリアムよ、もう少し仲良くしたらどうだ…」
「馴れ合うつもりはありません」
「そうか…、してクエルよ用事とは何だ!」
「許可を頂きたいと思います」
その時に目を上に左にと動かした
「何の許可だか知らんがそんなことで父上の時間を取らすな!」
「そうだな、クエル下がりなさい」
軽く頷いてくれた
「・・・申し訳ありませんでした」
退室して溜まった息を吐き出すと魔導具が管理されている部屋に向かい、管理している魔導師に許可を貰ったと伝え入らせてもらう、後々確認が入るが大丈夫だろう
目的の物を手に弟の部屋に戻るとエレックは一所懸命に話しかけて元気づけていた
「おかえりなさい、兄様」
先程浴びてきたことと比べ落ち着いていく
鳥籠に近づくと服の下に隠していた短剣を取り出して、さっき弟が言ったように地面にいるように呼びかける。 短剣に魔力を流していくと刃が輝く、それを鳥籠の上の方に横一閃に振るった、普通ならば弾かれて手にかなりの負担がくるのだが、スパっと短剣が通り上一部が横に落ちたのだった
「もう大丈夫だよ」
弟は鳥籠に呼びかけている、見えないので何処にいるかすぐに消えたか分からない、一応窓を開けにいき声をかけた
「少し経ったら閉めるからね」
弟と笑い合ってから、短剣を返しにいき書類で報告すると後日壊された魔導具も回収され処分されたのだった
それから2年の月日が流れる
「クエル、お前にしつこく使用人になりたいと志願する物好きがいるんだよ!、いい加減目障りだからお前自身が確かめてみろと父上からだ!」
あからさまに何で俺がこんな面倒なことをという顔で伝言を伝えにきた、どう考えてもアレリアム風に置きかわっているが伝えないと自分が大変な目に遭うので嘘はないだろう
使用人か?僕のことを知っている人だろうね、父上の目は確かで危険は無いと判断されたのだろう
賓客をもてなすお部屋にて、護衛一人を後ろに付けて件の志願者と対面する
「まず自己紹介してくれないかな?」
この言葉遣いも試している
「わたくしに名前は御座いません」
「名前が無い!?」
「お仕えすべき主により賜りたく存じます」
これだけでかなり特殊な人だとわかる、護衛なんて不信感しか感じていないだろう
「主は王ということかな?」
「いいえ、貴方様です」
父上が通すはずだ、どこまで発言したか分からないが信用しか出来ないよ
「お前を採用しようと思う」
「なっ!?」
「ありがとうございます!」
護衛から反感を感じるが、決まった場合にすぐに部屋に来てもらうようにすると言ってある、ザル警備だよね、でも不思議と危険性は無いと思っている
しかし、態々嫌味を言いに来たであろう兄が大剣を携えて廊下の真ん中で待ち構えていた
「そいつが使用人になるのかい?
即、身辺に置くなんて死ねって言ってるようなもんだろうね?」
言い方がいつもより優しいから皮肉感がひどい、今回はアレリアムの方が正しいけどね
「そうだね、これから色々任せるつもりだよ」
「あぁ、そうかい?
まぁ、せいぜい気を付けなよ」
「助言をありがとう」
「フンッ」
アレリアムは堂々引き返して戻っていく、採用しようとしまいと嫌味を言いに来たのがわかるなぁ
「ふふ、あれが僕の兄で第一王子のアレリアムだよ」
「はい、これ程黒い御方も珍しいと覚えやすいです」
出会ってすぐに雇用も破棄されるかもの今の状態でこれだけ言うのは大したことだろうね、普通ならば罰を受けるか叩き出されてしまう
「あはは♪ 言動には気を付けてね」
「畏まりました」
うん、気に入ったよ
部屋に戻るとまず彼に名前を付けることにする、色々と出して決まった名が『チェスター』
「これから君の名はチェスター、この名を贈ろう」
「ありがとうございます、精一杯お仕えさせて頂きます」
それから1年間で仕事を覚えさせ、合間に訓練と計画を組んだが、チェスターは護衛にも密偵にも優秀で半年くらいで正式に僕の護衛兼使用人となり、かけがえのない存在となる
驚いたのは弟のことにも目をかけてくれていて、ちょっとした嫌がらせを消してくれているらしい
チェスターもすっかり馴染んできた頃、もうすぐ弟が12歳になり家を出るというある日のこと、弟の部屋にチェスターと一緒に訪れた
「エレック…、いや、エック
数日あるとはいえ、もう君は僕の前に立つことが許されないんだよ」
「そうですね…」
僕はこの日のために用意した付与装飾をエレックへと贈る
「にいさ…。クエル様、ありがとうございます!」
「わたくしからもこれを…、どうか楽しい旅をなされて下さい」
「チェスターさん、ぅー、ありがとうございます!」
「いえ、わたくしはお二方に命を救っていただきました」
突然の告白に表情には出さないが驚いてしまう、エックにおいてもすごく驚いているので覚えが無いのだろう
「チェスター、救われたとは?」
「はい、私はかつて『人』でない種でした」
これだけでも驚きだが、語られたことは4年前のあの日に関連していることで更に驚愕の事実だった
彼が住んでいた世界もまたここと違う場所にあり色々な場所に遊びに出ていたそう、その日は隣の街に来ていたら突然魔法で打ち落とされ逃げることも出来ず魔力を吸収するあの鳥籠型の魔導具に閉じ込められ売られる予定だった
しかし王都へ来た物の、気になり捕らえた奴以外は彼を視認することも声が聞こえることも無く、ただの魔導具では高値を付けることも出来ずにふて腐れたらしい。
そうした状況で古い魔導具でも少なからずの価値があるからとそいつの仲間が隙をついて持ち逃げしてすぐに気付いた捕らえた奴が追いかけていた、逃げた奴はどうせ売れる物で無いと見た目から分かっていたから適当な奴に押し付け後で回収するらしかった。
「押し付けられたのが商売で食いつなぎをしようとしてた者で公務でいらしていたクエル様が興味を持って下さり、理解のある方でしたと偶然が重なりお二方様に救出されたということでした
なので、わたくしは貴方様方に付いていきたいと決意したということでした」
他の種族だったとか面白そうなことはたくさんあるけれど、あの時にチェスターを助けられてよかったと心から思う、どこまで知識があったか分からないがここまで人の生活と共生するのは大変だっただろう
「あの時無事に帰ることが出来たのですね、にい…クエル様のお陰ですね」
やっぱりエックも同じことを考えたようだね
しかし、変なことを言うね、エックがいたからこそ迅速に助けられたのにね
「ふふっ」
「??クエル様?」
「何でもないよ♪」
笑いが漏れてしまったが、チェスターも微笑んでいる、珍しいね、僕が思っていることも汲まれているんだろうね。
はぁ…、しかしもうお別れか…、チェスターの魔法への理解は深くエックの力を引き出してくれて正直助かったし感謝しかないよ、改めて場を設けようと思う
「エレック、よき出会いを」
「!!。はい! 兄様!」
チェスターも深く深くお辞儀をして僕の後に続いて退室した、またいつか会おうねエレック