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「神子と女神の冒険」 外  作者: スルー
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父、娘を見送る

 わたしは「アジィ」。

妻は娘を産んで1年程した後から体が弱く病弱になり殆ど布団から離れることはなかったが、いつでも微笑んでおり温かな笑みを家族へと向けていた、わたしもそれに助けられ頑張れた。

 そんな日々が続くと思われた時に妻がついに病に伏してしまったのだ。

「おとうさん…キー…ア…、わたしはとても……とても…幸せでした…。娘にも恵まれ…素敵な旦那様にも……出逢え…。迷惑ばかり…でし……た…が、『ありがとう』……これ………だ…」

 妻の最期となる言葉は最後まで紡がれることなく、わたしと娘に看取られて旅立ってしまったのだ

「おかーさん?寝ちゃったの?おやすみ」

わたしは涙が後から後からこみ上げてくるのを必死で抑えて娘に「お母さんは亡くなってしまったんだよ…、死んでしまったんだよ」と正直に伝える、しかし娘は理解していないようでまた起きると、目覚めると思っているが分かった、が…わたしは何も言わずに何となくご飯を作り娘に出して、何となくボロボロの布団に入ると涙が止まらなくなり、隣の娘に気取られないよう布団に顔を押し当て泣き眠った。

 次の日の朝には喪失気分はとてもではないが晴れないが感情が戻った。娘は起きない母に何かを感じたようで「おかーさん?おかーさん!、……、おかーさん…」と何度も呼んでいたが何か悟ったように黙り込んで寝床から動かなくなった。わたしも同じ気分ではあったが娘の存在が強くしてくれた、妻の葬をして娘に声をかけるが反応は無い、ご飯だけは出せば食べてくれたのでそれだけは救いだった。

 2日間経ってもそんな状態でわたしは困ってしまい、わらにもすがる思いで村人に相談したところ、興味あることを…生きる価値を出さしてあげられればと助言されて、悩み悩みに何かあるかもとフラっと品も少ない村のお店?に立ち寄ってみると店には似つかわない絵本が種や雑貨などと一緒に並べてあった、引き寄せられるようにその絵本を手に持つと

「それいるのか、銀貨1枚だ」

店主に言われ、どう考えても高いその値段を言われるがまま懐から包みをときお金を出して絵本を持って帰る、殆ど無意識に。

 家に帰ると出迎えも音も無くなってしまった場所に涙がぶり返しそうになるのも我慢して絵本を読んでみた、どうやら勇者のお話しのようでとても感動してしまった。

 時間になるとご飯を作り、笑顔で娘に出してあげる、その時一緒に買ってきた絵本も隣に置くと娘の目がそれ(・・)を追って置かれた絵本をボーっと眺めている

娘に反応があったのが嬉しかった、わたしにも(・・・・・)妻が亡くなって初めて元気がでてくる感じがした。 もう日常になってしまった暗い雰囲気で一日を終え寝ようとすると、なんと隣で絵本を捲っている娘の姿があった、表情こそ、そこまで出てないものの目は輝いていて、時折感嘆の声が漏れていた。わたしは邪魔しないように布団に入り良い気分で眠ることが出来たのである。


 次の日の早朝だった、扉が勢いよく「ばぁぁん」と開く音がして何事かと飛び起きる、すると、隣に娘がいないことに気付き青ざめて開かれた扉の外へと駆けてキョロキョロと状況の確認をしようと必死だった。 数秒もすると人の足音が聞こえてきて、トタトタとかわいい笑顔で娘が駆け寄ってくる、無事だったのにホッと安心し注意しようとすると

「わたし!勇者になるの!家を出るね!」

その手には少し太めの木の枝が握られていて、頭の整理が追いつかないままに家を出ると言っている娘を引き止めて理由を尋ねると絵本の影響だった!、元気になって嬉しい反面困ってしまう、結局、無理やりに一番最善と考えた案で説得した。

 それからは忙しくなってしまった、お店の人に狩猟をする人に、たまに村に来てくれる商人様にと頭を下げて嫌な顔をされながらも冒険者に大切なことを教わり吸収されない知識を頑張って覚えて娘に教える、慣れないことで自分も苦労したが体を痛めながらも娘と何か出来ることが嬉しく頑張れた。何より普段の生活が笑顔で包まれるようになったことがとても嬉しく女神様に感謝する。

 少し飽きっぽい場面で呆れることもあったが、娘は決して諦めない、表では辞めるように出しているが内では頑張って欲しいと応援している、しかし素人のわたしから見ても才能が…、やっぱり諦めて欲…、こんなこと考えてはダメだと頭を振った。


 年月は流れ、娘は約束の12歳までもう少しだ、何だか寂しく感じる。

 身体能力は目を見張るものになったけれど、結局あまり上達はしなかったなぁと感慨にふけて茶を啜っていた

「おとうさん!なんか女神様がお腹減ったって」

わたしは「女神様」という言葉に飲んでいたお茶を吹き出してしまった

娘に咎められながらも頭を回して遠回しのご飯催促と結論付けた、しかしそれは違うと気付かされる、食べ方も喋り方も違う、揶揄うにしても娘はそんな器用でなく真っ直ぐなことは誰よりも知っているつもりだ、ごちゃごちゃしている頭を処理している間に娘は丁寧なお礼といつものおいしいという感想を述べると、ワクワクした感じで娘がわたしの傷を見たいと言って差し出すと治してしまい驚いた。本当に女神様が…、この時はそう思ったがこれは娘の才能とすぐ後に分かる、魔法といえば四大魔法、この考えが悪かったようだ、ロクに知識がなかったのでこの女神様(・・・)がいなかったら潰してしまっていただろうな、と心から祈り感謝する、理解すると目の前に対象がいるのに何に感謝したんだろうと苦笑いした。


 それからはまるで別人を見ているかのような特訓だった、(一般的には単発であるが素人目には)魔法は自在に扱い怪我すればかすり傷でも回復する、娘の動きと力の入り方からサリュー様(女神様)も娘に今までと違う動きを提案していたようで新たな才能も発見できた、これならやっていけるだろうと嬉しさと寂しさを感じ、とうに説得は考えに無かったんだと意味ないことに気付いて一人笑ってしまった。

 娘に覚悟の試験を課し、サリュー様が娘と一緒にいて下さると、友達でいて下さると自分のことのように嬉しく感謝した。


 娘もついには12歳の誕生日を迎える

「うんっ!約束通り私は家を出るね!」

「父様、色々とご指南ありがとうございました」

 多分娘はいつでも会える、帰ってこれると思っているのだろうと感じた、そんなことは中々出来ないだろう…、下手をしたら…ブルリとした、うん、そんなことは考えない。

色々と別れの挨拶をして元気に巣立って行く娘を見送ると何処からともなく『ありがとう』と聞こえた気がして空をあおりみた、澄んだ空が心地よい、何故かわたしは寂寥感などは感じず清々しい気持ちだった、寂しい筈なのに不思議な感覚で家に戻っていったのだった。

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