4-1 別れの記憶
雲ひとつない晴々とした東の空。その下には、緑豊かな景色が広がっている。穏やかな午前の陽光が窓越しに部屋を照らし、暖かく柔らかな温度が、心地よく肌に触れる。
そんな平穏な日常のような空気が、世界が私たちとはまるで関係なく動いているのだということを、無情にも証明していた――。
隔離されたこの部屋は、ただ彼が眠るための機能だけを備えていて、部屋の中央にある天蓋のついたベッドの他には、何もない。
力なく横たわる彼の傍らには、私の他に数人の男たちの姿がある。並んでいるのは、いつもと変わらぬ顔ぶれ。
初めこそ姿を見せていた他の者たちは、今ではもうここを訪れない。病が伝染するのではと恐れ、ただの一度も寄りつかぬ者さえいた。
弱々しく差しだされたその手を取る。
壊れてしまうのではと怖くて、今ある感情とは逆さまに、優しく、優しくと心がけてそっと包みこむように握った。
このたった一月ほどの日々の間だけで、その手は、私と変わらぬ細さにまでなってしまった。
生まれつきの治らぬ病なのだと、幼い頃から聞かされてきた。だけど、それはいくらかの制限を彼に与えただけで、これまで問題なく、十数年変わることなく過ごしてきたのだ。
だからこそ、輝かしい未来があるのだと信じて疑わなかった。
どうしてだろうか……。もう、終わってしまうのだと、それがわかる。
ゆらゆら。ゆらゆら。
目に見えるもの全てが滲んで、視界がずっと揺らいでいた。
思えば、幼い頃泣いたきり、涙など一度も流したことはなかった気がする。
悲しいから、泣いているの……?
絶えず溢れでるものが、この感情を源としているのかどうかさえわからない。
ただ、熱と圧力が頭蓋の中を、そしてそれを包む皮膚との隙間すらも全てあっという間に満たしてしまって、もうどこにも行き場がなくて、それが液体になって、この目から溢れてしまっているのだ。
「……おまえ、に、やるよ」
力ない声。聞き逃すまいと、その乾いた唇へと耳を寄せる。
「もう、俺は……。夢を、かなえ、られない……」
いつも語ってくれた夢を、あなたはもう捨てるというのですね。
「聖地の、頂で。あの、剣を……。掲げるんだ」
まだ見ぬ彼の地で、その瞬間が訪れること。私もずっと夢見ていました。
「……約束、できるか?」
約束。そのかすかな声が、強烈に胸を打った。
それまで彼の一言一言に必死に首を振っていた私が、最後の言葉で動きを止めた。
「………………はい」
震える声が、確かにそう答えた。
それは、どこか遠くから聞こえたような気がして、私ではない別の誰かが発した声なのだと思った。




