はい、どうも。
小説投稿サイトへの投稿は初めてで、小説を書くのも初心者な新参者です。
不自然な描写や文章もあるかと思いますが、どうか暖かい目でご覧ください。
北武鉄道東神線。
首都圏を走る大手私鉄の本線だ。
俺はこの鉄道の本山手駅で駅務掛として働いている。
快速急行が停まる主要駅の一つ隣で、各駅停車しか停まらない小さな駅。お客の数も少ないので楽な職場だ。
七月の良く晴れた、とある木曜日。
「それじゃあ、休憩入っちゃうねぇ」
「お疲れ様っす~」
この駅は基本的に駅務掛と駅務主任の二人だけの勤務だ。だから、主任が休憩に入る昼過ぎの一時間半は、俺一人で駅務室で働くことになる。
入社三年目で初めてこの駅に来たときは不安で仕方なかったが、それから一年も過ぎれば慣れてしまうものだ。
月末は近いが、月報類の支度は終わっているし、書き仕事や備品の補充も今日の分は終わらせた。
こんな小さな駅、外線でお客から電話が掛かってくることもほとんどないし、今の時間は特にお客が少ないから、券売機や改札機がエラーを出すことも皆無だ。
暇……。
俺は、こういうお客のいない暇な時間帯は、防犯カメラの死角になるところでスマホをいじって時間をつぶしている。
褒められたことではないが、本当にやることがないのだ。電車が着くときには改札窓口に立つが、昼過ぎのこの時間、お客の対応をすることは滅多にない。
本当に静かなものだ。
さて……。俺は窓口からも防犯カメラからも死角になる部屋の奥まで事務椅子を引っ張っていき、腰かける。シンプルなパズルゲームに勤しむとしよう。
これくらいであれば然程集中せずとも進められるので、いざお客から声を掛けられてもすぐに窓口に急行することができる。
ゲームを始めて七~八分。
男声の構内放送が聞こえる。
『まもなく、一番線に、各駅停車、剣ヶ丘行きが、六両編成でまいります。黄色い線の内側まで、お下がりください。この電車は、夏野で、急行、東聖条行きの待ち合わせを致します』
さてと……。
スマホを椅子に置くと、俺は改札窓口に移動した。
防犯カメラの監視モニターを見ると、平成初期生まれの中堅電車が、下り一番線に滑り込んできたのが分かった。
程なくしてドアが開く。
『本山手、本山手でございます』
自動放送に迎えられながら降りてきたお客は……え~っと……。一二三四五六七……あっ婆さん一人。八人か。まあまあいるな。
静かな改札口に、徐々にお客の足音が近付いてくる。
改札まで来たお客たちは、カバンなりポケットなりからICカードを取り出すと、それを『ピッ……』と改札機に触れ、こちらに目もくれることなく通り過ぎて行く。
特に精算する必要のないお客に対して窓口の駅員ができることと言えば、愛想よく「ありがとうございま~す」とあいさつするくらいなものだ。
あっという間に、改札は元の静寂に包まれた。
そして、今度は数分後に上りの各駅停車が到着して、さっきのような小さな小さな喧騒が巻き起こる。日中はこれの繰り返しだ。
上りが来るまで時間もないので、俺はスマホに戻らずに窓口で待つことにした。
もう、「駅員」というか「あいさつ要員」だよなぁ。
支線が分岐する主要駅にいた頃の目の回るような多忙さだった新人時代をひどく懐かしく思う。次の異動の時はどこに行くんだろ、俺。前は快急停車駅、今は各停のみの駅。間を取って準急が停まる駅のどこかとかか……?
ボーッと将来のことを浅く考える俺の視界に、人影が入ってくる。
少々面食らってそちらの方を見ると、婆さんが一人、窓口の方に向かってヨタヨタ歩いて来ていた。
ああ、さっきの八人目のお客。
「すみません、これで」
渡されたのは身体障害者手帳だった。これの提示があれば、支払う運賃は五割引きになる。ICカードで駅に入っていれば、出るときに改札機を使わずに改札窓口で精算すれば、割引かれた運賃だけを支払うことができるのだ。
「はい、お預かりします」
手帳の「旅客鉄道運賃減額」の表記を確かめる。
「こちら、ご提示ありがとうございます」
手帳と入れ替わりにICカードを受け取る。
カードを読取トレーに載せ、窓口精算機の画面を見る。
「竜嶋本町駅からのご利用ですね」
婆さんがこくりと頷くのを見ながら、窓口精算機を操作する。
乗車駅は「竜嶋本町」、降車駅は「当駅」、「確定」っと。「割引適用」、「大人」……。画面の項目をタッチを繰り返す。
「では、割引の運賃一四一円頂戴します」
再び婆さんは頷いたので、俺は「精算確定」の項目をタッチする。
数秒後、『ピーッピーッ』という電子音が流れ、隣の印刷機からレシートが出てくる。
カードを取り、婆さんに返す。
「お待たせしました。こちらから一四一円頂戴しております。領収書はご入用ですか?」
「いいえ」
「かしこまりました、ありがとうございます」
「はい、どうも」
男の声が聞こえ、婆さんは窓口をヨタヨタと去っていった。
『本山手、本山手でございます』
今度は、女声の自動放送がホームから聞こえてきた。
あの婆さんの精算をしているうちに上りが着いたか。
防犯カメラの監視モニターに視線を移す。
さて、降りてきたお客は……あれ?
誰の声だ? 今の。
誘導鈴の音にトイレ前の音声ガイダンスの声、外の通りを行くトラックの音。遠くで聞こえる蝉の声。
いつもの駅の雑音が、いやにうるさく感じられた。
オチを付けるのって難しい……。




