発熱
◇九歳だった君◇
兄「なだ、熱出たって? 大丈夫か」
妹「うん。ねえ、お兄ちゃん。なんでお熱って出るが?」
兄「体の中で悪さするウイルスってヤツがおってな、そいつら熱に弱いげん。で、ウイルスが増えすぎると『やっつけんなん!』っていうので、体が熱出すんや。やから、熱出るんがは戦っとる証拠。なだもがんばれ」
妹「うん。けど、もしお熱出してもウイルスおらんくならんかったら、どうなるん?」
兄「大丈夫、そんときはお医者さんが注射してくれて、ウイルスやっつけてくれるから!」
◇十一歳だった君◇
妹「ねえ、お兄ちゃん。地球もお熱出すが?」
兄「ん?」
妹「今日な、社会で地球温暖化って習ってんけど、地球もお熱出すんやなあって」
兄「うん……そうやな。お熱下がるよう、俺らもがんばらんとな」
妹「じゃあお兄ちゃん」
兄「うん?」
――地球にとってウイルスって、何なん?
兄「……それは……」
――やっぱり、うちら人間なん?
兄「……なだ」
妹「えへへ、困らしてごめん。がんばろ。うちらはお医者さんにもなれるはずやから」
兄「……せやな」
◇今の君◇
報道者「新型コロナウイルスが……」
妹「えらいことになったわね」
兄「せやなあ」
妹「お医者さんが注射でも打ったのかしら」
兄「……千草」
妹「あら、そんな顔するってことは、覚えてるのね、小学生の時のなだとの会話」
兄「まあ、な」
妹「……冗談よ。志村さんまで亡くなったんだもの、不謹慎なことを言うつもりはないわ。でも、何かの暗示かと思わないでもないの」
我らが母星は何を求めているのかしら、ってね。