東
駅の改札を出て、とりあえずこの少年と別れようと思った。
「じゃあ、僕はこっちだから」
「え? こっちでしょ? 」
当たり前だろうといわんばかりに少年は僕の腕を引く。少年とは思えないほどの力の強さだ。少年はどんどん歩いていく。既に少年はほとんど小走りだった。
地元とはいえ、さすがに不安になってきた。道を覚えようと頭をフル回転させる。右、左、U字路をまがって……また左、間違えたみたいだ、右……交差点をまっすぐ、川を渡って……ダメだ、もうわからなくなってきた。
覚えていたところで僕がそれを元通りにたどっていけるかも怪しいものだが。
「ねえ、まだつかないの? 」
「いや、もうすぐだよ。」
さっきからこの会話を何回しただろうか。もうかれこれ一時間は歩いたような気がする。少年の歩く速さも最初に比べるとずいぶんゆっくりだ。小走りだったのが、今は一歩一歩踏みしめるようにして歩いている。
「疲れたなら休もうか? 」
「休んだらダメなんだ。絶対につけない。」
「そりゃそうだけど……」
「それに、僕は疲れてないから大丈夫だよ。」
本人がいいと言うんだからまあいいか。そう思った僕は話を変えることにした。
「これはどこに向かっているの? 」
「東だよ。」
東と言われても方向音痴の僕にはわからない。進んでいる方向がきっと東なんだろうな。地平線が見える。もうすぐ太陽が沈みそうだ。だいぶ時間がたってしまっているな。
……東?
東の地平線に太陽が沈むことなんてあり得るのだろうか。
「ね、ねえ、これ本当に東に向かっているの? 」
「そうだよ。」
そう言って振り返った少年の手には方位磁針が握られていた。
それははっきりと、僕らの進む方角が東であることを指していた。