おっさん
おい、おっさん。
その一言でおっさんの背が縮こまったのがわかった。自分のことだとわかったからであろう。普段の僕なら絶対に声をかけたりしない。しかしこの時ばかりは勝手が違った。そのおっさんは姉のスカートの中に手を入れかけていた。僕は断じてシスコンなどではない。しかし、目の前で家族が辱められているのを見るのは我慢ならなかった。
何してんだよ。
そのまま言葉を続ける。
なあ、と声を荒らげると同時におっさんの手に握られていたスマートフォンを奪い取る。この手の犯罪者がよくやるように画面が暗くなっており電源が落とされてあったかのように見せかける細工がしてあったが、こんなものにはもう慣れた。すばやく解除し、画面を見ることもなく姉に押し付けるようにして見せる。姉は僕の手からそれをとると、おっさんに見せた。
「これ、どういうことか説明していただけますか。」
そのおっさんよりも背の高い姉はおっさんが逃げないように腕をがっちりと掴み、次の駅で降りていった。
僕はなんだか気恥ずかしくなって次の駅で扉が開いたらすぐ降りようと決めた。やっぱり人間、慣れないことはするもんじゃないな。
もともと何か予定があったわけではない。家でごろごろするくらいなら外で遊べ、というアクティブな母の鶴の一声で出かけることになってしまったのだ。姉も僕と一緒に追い出されただけだ。
さあ、これからどこに向かおうか。