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光芒少女☆HERESY! ――異端者たち――  作者: 自己満足(みずみ・みちたり)
1/4

#1 うねる黒雲、《レイニー・ホエール》 1

見ていただきありがとうございます。

ブクマヨロスクオナシャス。


         0


 そいつはコンクリの地面を、まるでそれが太平洋の柔らかい海面であるかのように、滑らかな動きで潜っていった。それでも建物群が倒壊することはなく、あくまで平然と、震度4の地震が起こった程度にしか振動していなかった。


「これじゃあどこにいるか判らないわね」

「ああ、まったくだ」


 制服姿のナギサの言葉に、俺は頷いた。


「どうする? このまま適当に地面目がけて攻撃してもいいけど……」

「ああ、駄目だ。それは。余計に被害が出る」

「そうだな」


 同じく制服のシュロムが言い、僕が答えた。


 俺とナギサとシュロムは今、とある都銀のビルの屋上から、荒れ狂う地上を見下ろしていた。人々は逃げ惑い、電線はおろか、電柱まで一本残らずなぎ倒され、地割れしていない事の方が不自然だった。


 厄介なのは、《奴》が吐き出す有毒の体液、《消失液スコンパリーレ》。ものの一分で物体を完全に分解し、気体にさせる。《消失液スコンパリーレ》はすでにこの街全体に蔓延しており、今俺たちがいるこのビルも、もとは二十五階まであったのに、液体に溶かされ、今では五階程度の高さしかなく、微妙に斜めっている。今にも倒壊しそうだった。


「幸い、奴が体液を飛ばせる高さはせいぜい五メートルだ。俺たちに直接かかる心配はない」

「でも早くしないと犠牲者が……」

「ああ、蘇生できる遺体は死後十五分以内と限られてるしな」

「あ、見ろ!」

 

 シュロムが遠くの方を指さす。


「! ……まずいな、こりゃ」

 

 ここから百メートルほど離れた大通りに、奴は姿を現した。――といっても、全身の約二割ほどだけだが。

大渋滞でサイレンやクラクションや悲鳴が飛び交う中、奴は道路からいきなりその真っ黒な肌をあらわにした。

もともと道路にいた自動車たちは無慈悲に吹っ飛ばされ、やがて他の車と衝突し、発火・炎上した。


 ゴゴゴゴゴゴ、という耳をつんざくような《奴》の鳴き声に、ナギサは思わず耳を塞いだ。

 

「な、何⁉」

「あの《くじら》、また潮を噴くんだ」


 シュロムの言った通り、鯨――《レイニー・ホエール》はその体液を背中から撒き散らした。ものすごい熱風。ここからでも少し、気体状になった奴の体液を浴びているのだと思うと、俺は思わず息を止めた。

 《消失液スコンパリーレ》の噴水を浴びた信号機が、一瞬火花を散らせたかと思うと、まるで手品のようにその場から蒸発した。自動車や人間たちも同じ末路を一緒に辿っていくのを見ると、胸が痛くなる。


――蒸発した人たちは助かるんだろうか……。

 少し不安になった。


「じっとしていても始まらない」、と俺は声を張り上げた。

「ナギサ、お前の水源能で、この辺り一帯を水浸しにさせてくれ」

「え……」

 なぜ、と首を傾げるナギサ。

「水に浸すことで、少しでも消失液が薄まるようにしてくれ」

「え……でも、その水も消されちゃうんじゃ……」

「大丈夫さ、液体が相手なんだから……それに、もしそうだとしても、水圧で食い止めるくらいのことはできるだろう?」

「ああ、そうね」

うんうん、と頷くナギサ。


「アタシは何をすればいい」

 シュロムが訊ねた。

「シュロムは、鯨を感電させてくれ」

「……それは、ナギサが放った水流に電気を流して、アイツを倒すって事か?」

「いや、それは無理だ。第一、奴は地面だけは溶かさないから、電気を地上に流したところで、地下に潜っている奴には利かない」

「じゃあ、どうやって……」

「奴が呼吸をするために地上に出た瞬間を狙うんだ。そして奴が液体をばら撒いたそのとき、奴の噴水に雷を落としてくれ」

「‼ ――ああ、なるほど」

「電流は消失液を辿って奴の体内に流れ込むはずだ。――そして」 

「私がやっつけるわけね?」

 ナギサが微笑む。

「……ああ」

 俺もそれに応え、静かに笑い返した。


「任せて」


         1


 ナギサとシュロムはいつものように呼吸を整えると、銀色のカッターナイフを取り出し、刃を出した。


「「皇帝カエサルのものは皇帝カエサルに。――神のものは神に返しなさい……」」

 

 ふたりは、息を揃えて台詞を唱えた。


「「お借りします――――神様」」


 ジャキッ。

 と、ふたりは同時に、自分の手首をカッターで切り付けた。

 赤い液体が傷口からじわじわと溢れる。

 見ているだけで痛そうだが、ふたりは平気な顔をしている。この《儀式ミサ》を今まで何度も経験してきた彼女たちにとっては、もううんざりなのだろう。


 手首の血の雫を、地面に落とす。

 何もない、コンクリートの地面。

 そこに彼女たちの血潮が一滴垂れただけで、

 波紋のように広がっていく、――模様。

 

「「変身リカント」」


 その言葉を発した、それだけで。

 地面に描かれた波紋は、魔法陣のように白く輝き、

 その閃光は、彼女たちを包み込んだ。


『************!!!』


 神が、語り掛ける。

 彼女たちは、両手を合わせ、祈るだけ。


 その光の筒の中で、ナギサとシュロムは、一瞬全裸になり、やがてその肌に《何か》が浮かび上がり、まとわりついた。原子や細胞が誕生したようにも見えた。


 彼女たちは、祈り続ける。


 やがて身体にベージュの《隊服》と《武器》が浮かび上がった。ナギサはもりで、シュロムは銅線コードだ。

 やがて髪が光り始めた。毛先が浮き上がり、徐々に白みがかってくる。やがてナギサは群青、シュロムは山吹色。


 閃光は、見えなくなった。


 シュロムとナギサは祈りを捧げていた手を下げると、己の《武器》をしっかりと握り直した。

 見ると瞳の色も髪と同じ色に変化していた。

 

こうしている間も、《レイニー・ホエール》の被害は拡大を続けていた。


「悪いな、いつも」

俺が毎度毎度の台詞を言う。

「いいんだよ、別にさ。あんたが悪いわけじゃないし」

ナギサもいつも通りだ。


「じゃあ、行くよ」

 シュロムが振り向きざまに言った。

「おう」

 ナギサが準備万端とばかりに指を鳴らす。


 そうしてふたりは、屋上から跳んだ。



ブクマありがとうございました。

え?つけてない?

……まあいいさ、次に進むがいい。

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