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「動くな!」
蘇邑の背後で男の声がする。
(何故、矢を放たん?)
卑弥呼は、彼が王の殺気が集中しているこの好機を逃さず、矢を放つと思っていたが、あまりの正直な行動に我が目を疑った。
再々三度の妨害に、蘇邑は、声のする方へは振り向きもしない。
「今度はなんだ!」
蘇邑は怒りを露わにして叫ぶ。
傷だらけで、息を切らし、たった今、駆けつけた彌眞が、王に狙い定めて、弓を引き絞っている。
十六夜は彼を見、安堵の表情を浮かべる。
「卑弥呼様を手にかけたら、あなたの命を奪う」
「ほう」
蘇邑はちらりと、彌眞を横目で見ると、卑弥呼を睨みつける。
「鏡片を持つ男よ。お前の放つ矢ならば我を殺せよう。だが、我には生きるか死ぬかなどは、どうでも良いことだ。我は卑弥呼の命さえ奪えればそれでいい」
蘇邑は薄ら笑いを浮かべる。
「たしか、彌眞と言ったな、俺の命を奪ってみよ。お前の覚悟を示せ」
蘇邑はそう言うと、矛を卑弥呼の心臓目掛け突く。
彌眞は息を飲むと同時に矢を放った。
卑弥呼は、覚悟を決め、目を閉じる。
しかし、心は穏やかだった。
蘇邑は彌眞の矢で命を落とすことになり、壱与達、次の邪馬台国を背負う人材を確保できたままでいられる。
彼女の最も恐れることは、後継者壱与の死であり、すなわちそれは、邪馬台国の崩壊を意味する。
それに比べると、先の短い自分の死など、今まで戦いの犠牲になったクニグニの民の事を思えば、それも当然と諦めに似た境地となっていた。
だが、それを良しとしない者達がいた。
十六夜であり、彌眞であり、壱与であった。
壱与は卑弥呼に身体ごとぶつかると、体重の軽い女王は飛ばされて倒れる。
壱与は卑弥呼の上に覆いかぶさる。
女王は自分の考えが甘かったことに深く後悔をした。
十六夜は、蘇邑に向かって飛び出し、彌眞も矢を放った直後に王に向かって走り出す。
壱与の体当たりによって、女王が難を逃れたお陰で、蘇邑の一撃は後ろの大鏡を粉微塵に砕き、空振りに終わる。
その刹那、光の矢が蘇邑の右肩を貫き、肩口の肉をえぐり取り壁に突き刺さる。
苦痛に顔を歪めながらも、左腕一本で卑弥呼を仕留めにかかろうとするが、十六夜が蘇邑の右足に飛びつき、彌眞が蘇邑の顔面に拳を叩きつける。
すでに卑弥呼の命を奪う事しか眼中にない蘇邑は、不意をつかれた形となって倒れてしまう。




