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彌眞は副官の背後に素早く回り込むと、左手で首に巻きつけて、鉄剣を副官の喉元へ押し当てる。
周囲の敵兵を威嚇する。
「いいか、動くな、動いたらお前たちの指揮官の命はない」
「馬鹿な、兵に指揮するのは、我が王だ」
「その王は、ここにいない、それはどういうことか!」
「・・・・・・」
「王が戦死したとは、まず考えられない。となると、目的はただ一つ卑弥呼様」
「・・・・・・」
「もう一度聞く。王は何処へ行った」
「・・・知らない」
「では、王は神殿に行ったのか」
「・・・・・・」
「行ったんだな」
「・・・知らない」
「時間がない、確たる証拠が欲しい」
「・・・・・・」
「死にたいのか!」
彌眞は、副官の首に巻きつけている腕に力をいれて絞めつける。
「殺せ!」
副官は、自ら切っ先に喉元を押し当てる。
彌眞は慌てて、剣を引いた。
副官の肌が切れ、うっすらと血が流れる。
「何をするんだ」
逆に驚く彌眞。
「私を殺すのではなかったのか」
副官はそう言うと、自暴自棄に笑った。
「今、あなたはここで死んでいいのか」
「何を」
「あなたは、ここにいる兵士とクニを見捨てるつもりか」
「はは、笑止!ここにいる兵は、王と生死を共にすると決めておる」
「では、ここで滅亡すると」
「それが運命ならば」
「それは、あなたの本心か」
「・・・・・・」
「あなたの心根がそうであったとしても、まだやらなくてはいけない事があるはずだ」
彌眞は巻きつける腕の力を少しだけ緩める。
「あなたは、これからを見届ける必要があるはずだ」
彌眞は、深く息を吸い込むと、
「もう一度言う。ここにいる蘇奴国の兵、クニ、民を見捨てるつもりか!」
彌眞は一貫して、この言葉を言い、そして叫ぶ。
副官は唖然としていたが、だらりと力を抜き、苦笑した。
「わかった。お前の言う事が尤もだ・・・王は単身で神殿へ乗り込んだ」
彌眞は、破顔し笑うと、
「ありがとう!」
副官への拘束を解く。
素早く、背に持った弓を持ち、矢をつがえると神殿目掛け、弦を引き絞る。
囲む蘇奴国の兵士達に叫ぶ。
「道を開けろ。この矢はお前たちの王と同様、鬼神の力を持っている」
兵士達は囲みを解かない。
彌眞は傍らの副官に言った。
「どうか、生き延びてください」
「・・・」
「蘇奴国の為に」
彌眞はそう言うと、天を目掛けて矢を放つ。
矢は真上に激しい風を切る唸り音をあげ、光の尾を伸ばしながら天に吸い込まれていく。
兵士達が矢の行方を見守る中、彌眞は次の矢を引き絞り、
「次は本当に狙う。この矢は何処までも突き抜けていくぞ!」
彌眞は大音声で叫ぶと、神殿目掛けて矢を放った。
光の尾を持つ矢は、唸りをあげ線を引く。
同時に彼は真っすぐ走り出す。
兵士達は矢をよけようとし、道が開けた。
彌眞は矢を追って、神殿へと駆ける。




