87
余波は血相を変え立ち上がると、年長者の顔面すれすれに自分の顔を近づけ、
「誰に向かって言っている。この私は弥奴国王だぞ」
年長者は余波の恫喝には、動じず、
「あなたは王ではない」
「何」
「決して、王たる人ではない」
「・・・・・・」
余波は衆人の前で、王失格という恥を晒され、拳を震わす。
「あなたは、人の痛みが分からない。自分勝手な人だ」
余波は年長者の襟首を掴み、絞めかかる。
年長者はそれを片手でいとも簡単に払いのけると、余波はよろめいて後ずさり、腰から倒れた。
年長者の自分に対する信じられない暴挙に、余波は唖然となる。
彼はさらに話を続ける。
「王という権威を身体中に身に纏った。ただの小心者だ」
余波は見る見る涙目になる。
年長者は冷めた目で、思いのたけを吐き出した。
「おのれ!」
辺りに怒号が響き、余波は年長者へ飛びかかる。
彼はすばやく身をかわすと、余波は身体の均衡を崩し、顔面から地に激突する。
そんな二人の険悪な状況に、従者たちはただただ戸惑う。
彌眞はそれを止めようと駆け寄る。
余波は泥だらけとなった顔を、ゆっくりともたげ、鉄剣を構え年長者へ襲いかかる。
年長者は余波が剣を振りかぶった瞬間、懐に入り込み腹に掌底を入れる。
余波の手から鉄剣が落ち、地に落ちた剣先からは白い霧の飛沫がでていた。
余波は、腰砕けとなり、また地に倒れ、彼は真っ赤な顔を痙攣させ、なお年長者を襲おうとする。
「やめろ!」
夜邪狗は、視線は敵を見据え、微動だにしない姿で叫んだ。
その時、彌眞が二人の間に入った。
何を思ったのか余波は彌眞が片手に持つ、弓を両手で力づくで引っ張り取り上げると、彼の背中の矢筒から矢を取って、つがえると年長者に向かって弓を弾き絞り、矢を放った。
矢先に霧が発し、年長者の肩を貫き、そのはるか先で反り返り、矢は天に向かって飛んでいく。
「・・・・・・」
一瞬の出来事に言葉を失う彌眞だったが、うずくまる年長者に駆け寄る。
余波はその時に、矢筒からもう一本の矢を取り出した。
「ははははは!」
余波は破顔し、年長者を見下し笑い続けた。
余波の頭は混乱していた。
「うひゃ、ひゃ、ひゃ!」
奇声をあげながら、駆けだすと弓兵部隊の先頭に抜け出し、弓を引き絞ると天に向かって矢を放った。




