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余波が邪馬台国にやって来たのは、二日ほど前の事だった。
彼はいつもの高慢さで、年長者と新たな五人の従者とともに現れた。
門前にて尊大な態度で、卑弥呼との面会を要求した余波は、邪馬台の兵士に文字通り門前払いで拒否された。
彼はそれに怒り狂い、鏡片をこれ見よがしに見せびらかした挙句、兵士を口汚く罵った。
その場にいた夜邪狗は苦笑し、隣にいた彌眞は、顔を真っ赤にして自分の事のように恥じた。
しばらく続く余波の罵声に、夜邪狗は呆れかえり眺めていた。
「あれが・・・鏡片を持つ者か」
彌眞は俯き頷いた。
「成程・・・とんでもない奴だ」
彌眞は恥ずかしさで、身体を小さくしている。
「では、彌眞。あれはお前の仲間だな」
彌眞は首を振って否定したいところだったが、鈍重な遅さで頷いた。
「五月蠅くてかなわん。行って連れて来い」
「はい!」
彌眞は言われた瞬間に飛び出し、ものすごい形相で余波の元へ駆ける。
真っ赤な顔をして、余波に注意をしたが、逆に怒り狂ってしまった彼を止められず、何故か謝ってなだめすかしたのであった。
そして、今に至る。
(これ以上は本当に御免だ)
彌眞は再会の時を思い出し、身震いする。
余波は急に黙り込んだ彌眞に、言いくるめたと得意満面の顔で年長者を見た。
その時であった。
行軍の動きが止まる。
よそ見をしながら歩いていた余波は、前の兵士とぶつかり、厳しい形相で睨まれる。
邪馬台国軍は川を狗奴国軍は山を背にして、見晴らしのいい平野で対峙している。
前線にいる邪馬台国軍、指揮官将軍難升米は対峙する狗奴国軍を睨みつけている。
伸びきった髪に、日焼けした精悍な顔つきは壮年に達していて、背は高くないが、屈強な筋肉質の身体からは気迫が漲っていた。
難升米は目を凝らす、狗奴国軍に混じり、蘇奴国軍が見える。
「ふん、狗奴国連合軍という訳か」
難升米は一人呟く。
副官の男が訝し気に指揮官を見る。
彼は独り言を言った自分に苦笑いを浮かべる。
それから鋭い眼光で対峙する敵を見つめる。
(兵は、やはり憔悴しているようだな)
難升米は対峙する兵士の動きが鈍い事を見逃さない。
両国は対峙したまま互いの様子をうかがい、静観を続けている。
難升米はじりじりと照りつける日差しに目を細めると、
(そちらが動かぬなら、もっと苦しめるか)
彼は動かない事を決め、副官に、
「敵が動かぬ限り、こちらは動かぬ。その旨を各部隊に伝えよ。ただし警戒を解くなよ」
副官は頷くと、早速伝令に告げ、前線部隊には自ら大声で伝える。




