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 卑弥呼はまだ日が空けぬ頃、薄暗い広間で瞑想にふけっていた。

巫女が駆け寄り、卑弥呼に告げ、すぐ立ち去った。


「来たか・・・」


と、呟くと、卑弥呼は目を開け、再びゆっくりと閉じた。

やがて、朝陽がのぼり、広間に眩しい光が注がれても、彼女は瞳を閉じたまま。

瞑想が破られたのは、もうしばらく経ってのことだった。


狗呼が息を切らせて広間へと来る。

卑弥呼はゆっくりと目を開け、弟王を見る。

彼は息を整えようともせず、矢継ぎ早に話し始めた。


「あ、姉上のおっしゃった通り・・・ク、狗奴国の軍勢が我がクニに向かっています」


「今、巫女から聞いた」


 狗呼は、姉の情報収集の速さに驚く、これまでも邪馬台国の危機には卑弥呼の素早い対応で乗り越えてきた。


(今回は打つ手が遅すぎるのではないか)


 と、狗呼は思ってしまう。

 そんな彼に卑弥呼はにたりと笑う。


「まぁ、落ち着け。息を整えよ」


「は、はい」


 狗呼は大きく息を吸い、深呼吸をして息を整える。

 卑弥呼は話し出す。


「この戦、すでに勝っておる」


 と、断言し、


「この前の件、手はず通りに事は進んでいるのだろう」


「はい。それは」


「ならば、間違いない」


 狗呼は自信に満ちて言い放つ卑弥呼に不安を隠せず、


「本当に勝てるのでしょうか」


 女王は彼を諭すように、


「狗奴国の兵士の疲労は相当なものだ。姐奴国を滅ぼし、このクニに来るまで、どのくらいかかった」


「それは・・・」


「わずか、五日だ」


「・・・強行軍」


 狗呼の呟きに卑弥呼は頷く。


「対蘇国からいくつかのクニを滅ぼし姐奴国、まさに破竹の勢い、狗奴はかなり無理をしておる」


卑弥呼は一息をおいて、


「兵士達は疲弊し、この強行軍、多くの落伍者も出たことであろう。勝っていることで、士気は上がっているかも知れんが、無謀だ」


「では、勝てると」


 あくまでも慎重な狗呼に対して、


「当然だ!増長した狗奴国に先はない」


 と力強く言い切った。


「おお」


 狗呼は感嘆の声をあげる。


「それに」


「それに・・・」


「信じることだ。この戦、信じることが出来なければ、勝つことは出来ない」


 と、自分に言い聞かせるように卑弥呼は言う。

 狗呼も同意し頷く。


「しかし、この戦、ある程度の犠牲も覚悟しなければなるまい」


 卑弥呼は続けて、


「これは狗奴国を滅ぼす、またとない機会かも知れん。私の命がある内の最後の・・・な。そして、犠牲となったクニグニそして民達の為にも」


 狗呼は神妙に聞き入り、そして言った。


「では、どう戦いますか」


「いつも通り、軍の指揮は将軍、難升米に任せよ。今回は戦えば勝てる。何人たりとて、邪馬台国に足を踏み入れさせるな」


 狗呼は、そこまで聞くと一礼し、足早に立ち去って行った。

 一人だけとなった卑弥呼は溜息をつく。


「勝てるか・・・私は戦場に赴きもせず、いつも簡単に言うておる」


 自嘲し笑うと、彼女は再び瞑想へと入る。


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