82 十四、倭国大乱
卑弥呼は柏手を打って、巫女を呼び戻す。
二人は再度、礼をすると立ち上がる。
壱与はもの言いたげに、二人を見ていた。
女王は彼女の頭にぽんと右手を置く。
「まだ、二人と一緒にいたいか」
「はい!」
「そうか、そうか」
卑弥呼は二人に言う。
「という訳だ。すまないが、早速今日から壱与のお守りをしてくれ」
「私は幼子じゃありません」
「わかっておる、わかっておる」
壱与は顔をほころばせ、立ち上がると子どもらしく元気でせわしい足取りで、二人の元へ駆け寄る。
十六夜は背伸びしていた自分に重ね合わせ、采乎は母親のような気持ちで、この愛らしい少女を気に入った。
十六夜と采乎は、顔を見合わせ頷くと、壱与を真ん中に共に手を繋ぎ、巫女に従って退出する。
卑弥呼は愛おしい娘を、優しい眼差しで見送った。
視界から、彼女達が消えると、表情を引き締める。
深く刻まれた皴がさらに増え、厳しい顔へ変わる。
穏やかな余韻に一息つく間もなく、柏手を打つ、別の巫女が現れ伝える。
「急ぎ、狗呼を呼んできておくれ」
巫女は一礼し、その場を去る。
卑弥呼は誰もいない広間の大鏡を見つめ、
「また大きな戦がはじまる」
と独り言を呟いた。
彌眞と十六夜は、それぞれの新たな思いを抱き、夜が更けていく。
十四、倭国大乱
初秋迫る、残暑の厳しいある日の事、何の前触れもなくその時はやって来た。
彌眞は陽が昇らない内に起きて、櫓から薄靄煙る周りの状況を探る。
それが彼の日課となっている。
いつものと変わらぬ邪馬台国の景色と、その先にそびえる山々から少しずつ、あかりが射し込む来光を見るのが楽しみとなっていた。
その日もいつも通り、櫓に立ち、全体を一望する。
(異常はないな)
しかし、異変に気付いた。
遠く山の裾野から煙があがっていた。
彌眞は首を傾げ、目を擦るとじっとその煙を観察する。
(何かいる)
次第に煙が数本となり、やがて数えきれない煙が、上空に上がっていくのが見えた。
彌眞は櫓のへりに身を乗り出して見つめ続ける。
(火を起こしているのか?まさか!)
彌眞は、長い梯子を遮二無二降りるが、とても長い時間に思えた。
梯子の中段で、我慢できずに飛び降りたが、着地に失敗して一回転、そのまま身体を起こすと、一目散に夜邪狗のいる兵舎へと向かった。




