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十六夜の両頬には、うっすらと枯れ果てた涙の線が見える。
それを拭おうとせず、十六夜は静かに待つ。
采乎は隣で寄り添い、優しく見つめている。
彼女達は今、一室に待機している。
(私は・・・)
十六夜は何も言わずに別れた彌眞を思う。
落ち着いた今、振り返ると彼は正しい選択をしたと思う一方、やるせなさがある。
彼女は自分に問いかける。
(・・・私は、今まで何のために旅をしてきたのだろう)
その行きつく答えは、彌眞と同じだった。
が、容易にそれを受け入れる事が出来ない。
(彌眞は・・・どう考えているのだろう。きっと割り切っているのだろうけど、私は)
と考えつつ、天井にあるシミを見つけた十六夜は、じっと見続けていた。
すると、一人の巫女が部屋へと入って来た。
巫女は二人の正面に立つと軽く礼をする。
「こちらへ」
と、言うと、長い通路を抜け神殿へと入る。
それから十六夜と采乎は、巨大な神殿の奥、大きな広間に通される。
そこには、老婆と少女がいた。
巫女は二人に深々と頭を下げると、その場から立ち去っていく。
(この二人が卑弥呼様と壱与様・・・?)
十六夜は、思っていたより、小柄でずっと温和にみえる老婆が卑弥呼だろうかと疑問に思った。
彼女は、もっと長身で神秘に満ちていて、威厳のある姿を想像していたのである。
壱与は齢十歳と聞いていたが、年齢よりも幼く見えるが聡明そうだった。
だが、それにも増して愛らしい。
卑弥呼はじっと十六夜の心の機微を観察していた。
彼女はじっと十六夜の瞳を見る。
その瞳の圧迫感に、思わず瞬きをしてしまう。
卑弥呼は豪快に笑う。
「まだ、まだ」
と、言うと、
「人を見かけで判断してはいかん」
十六夜は心を見透かされて、赤面する。
「ほ、ほ、ほ」
卑弥呼は緩やかに笑うと、
「まぁよい。お主くらいならば、悪意がなくて」
と、卑弥呼は采乎を見た。
完全に二人を侮っていた采乎は、見透かされてうな垂れる。
「大抵の者はこうなる。私の瞳はお主たちの心の姿を映し出す鏡のようなものだ・・・ふふ。だが、邪馬台国を束ねる女王が、まさかこんなちんちくりんとは誰も思うまいて」
と、自嘲気味に笑う。
壱与は卑弥呼の袖を引っ張って、そんな事はないと首を振る。
卑弥呼は愛おしそうに、壱与の髪を優しく撫でつける。




