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一歩近づく度に緊張で身体が震える。
木陰の人影がはっきりと見えてくる。巨木に背を預けて朽ち果てている身体。
祖母に深々と頭を下げた。それから片膝をつきしゃがみ祖母と対面する。
衣類を残したまま白骨化している祖母の頭蓋骨を見た。
そのくぼんだ瞳のあったところを見続ける。
十六夜は初めて見る人の骨に、祖母とはいえ恐れを抱いていた。が、長い間じっと祖母のない瞳を見ている内に心が落ち着いてきた。
徐々に十六夜の目に映る祖母は、一度も見たことのない祖母の面影が現れる。
祖母に対する懐かしさと愛おしさに、十六夜はその頬を手で触ろうとする。
小指が触れた瞬間、わずかばかり残った乾いた肉片がぽろりと落ちる。
十六夜は我に返り手を引く。しかし見れば祖母が笑っているように思えた。
躊躇った両手を伸ばし祖母の両頬に触れた。
それからごく自然に自分の額を祖母の額に合わせた。
そうすることで、祖母に触れたいと思った。
瞬時、十六夜は全身に力強いなにかが宿ったと感じた。それから懐かしさ、優しさ、愛おしさという感情が全身を駆け巡り、その両目から止めどなく涙が溢れだした。
大粒の涙が落ちて、祖母の胸元に落ちた時、何かにあたり雫が光り四方にはねた。
十六夜はゆっくり祖母の額から離れた。
女王が頷いてるように見えた。
恭しく祖母に一礼し、十六夜はそっと祖母の胸元にある光るものを取り出した。
それは、彌眞が見せたものと同じ鏡の一片だった。
祖母からその使命を受け継いだことを十六夜は強く感じた。