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「くそっ、一体ここは何処なのだ」
泥まみれの顔を拭いながら、余波は言った。
山中を歩く事、もう二日が経っていた。
いまだ鏡片の在り処の手がかりはつかめないまま、彼らは山中深く迷い込んでしまった。
霧の深い中をさまよったのが、致命的であり、自分達が何処にいる事すらも分からなくなっている。
同じ景色の中を歩く、山の恐ろしさに気を逸らす為、余波は多弁に喋る。
男達は疲れの上、さらに彼の叱咤、小言に耐え、うなだれ、返す言葉もなく無言のまま従う。
「ええい、何とか言ったらどうなのだ」
無言の男達に余波は怒りをぶつける。
「お前達が、しっかりとしていないから、こんな山に迷ってしまうのだ」
彼は自分が霧の中を強行させた事を忘れてしまっている。
「ふん、使えぬ奴らだ」
余波は怒りをぶつけるかのように鉄剣を振るい、藪を払いのけた。
男達は彼の剣幕に慣れきってしまっているので、平然と受け流している。
余波はそれが癪に障る。
「お前らはいいよな。黙っていれば事が済むと思っている。だが、王である私はそうもいかぬ。崇高な目的を達しなくてはいけない、ここで倒れる訳にはいかない。おまけに貴様らも野垂れ死にさせる訳にはいかない・・・だからだ」
余波は自分の言葉に酔いしれ、一気に顔を紅潮させると大きく息を吸い込んだ。
男達は、それはじまったと身をすくめる。
「なんとかしろ!」
余波は叫ぶと、
「お前らの力で、弥奴国の王、私を守るのだ。お前たちは父上とともに数々の困難を乗り越えた英雄たちだろう、さぁ、知恵を絞るのだ!」
無能呼ばわりした挙句、知恵を絞れという、余波の矛盾した言葉に、男達は顔を見合わせ、うな垂れると沈黙を続けた。
「なんとかするのだ!」
余波は再び叫ぶ。
男達はなおも無言。
彼の小さな許容範囲はとうとう崩れてしまった。
「おのれ!」
目を血走らせて余波は、誰彼ともなく鉄剣を振り回す。
男達は四散して逃げる。
振り回した剣が、年長者の頭をかすめる。
「余波様、落ち着いて」
「やかましい!」
正気を失い、剣で年長者を斬ろうとした時、男の一人が茂みの向こうから叫び声をあげた。
「ぎゃあああああ!」
断末魔の叫び声をあげ、男は木々の中へ吸い込まれ消えて行った。




