67
ぼやけた目で彌眞は二人を見る。
その時、木の葉の上にのっていた水滴が、彼の首筋に落ちた。
「ひやっ!」
彌眞は高く宙に跳びあがると、両足で着地する。
目をぱちくりと何度もしばたかせる。
その動きが可笑しくて、二人は一斉に笑い出した。
「・・・・・・」
目を覚ました彌眞は恥ずかしそうに二人を見ると、照れながらその場に座わる。
「おはようございます」
咄嗟に彼は律儀に挨拶をした。
「おはようございます」
二人は返事を返す。
三人は顔を見合わせると自然と笑い合った。
その後、采乎が十六夜と同じ問いかけをする。
「彌眞様、お身体の具合はどうですか」
彌眞は立ち上がり、全身を動かして頷いた。
「大分、いいです」
と、笑顔を見せた。
「それは、よかった」
采乎は安堵する。
十六夜はさっきの自分とのやりとりを思い出し、くすくすと一人笑う。
彌眞はそんな二人を穏やかに見ていたが、辺り一面が濡れていることに気が付く。
それに余波達もいない。
(おや、晴天だったはずだが・・・余波殿・・・は?)
一瞬にして彌眞の表情は険しくなる。
「いつまで、眠っていた!」
急に語気を荒げて言った彼に二人は驚く。
さっき知った十六夜が、
「一日半・・・」
と言うと、彌眞は勢いよく立ち上がり、山を見据え走り出そうとする。
十六夜もそれに倣い立ち上がる。
采乎は両手を広げ止める。
「どこへ行くのですか」
「えっ」
分かるでしょという二人の顔を意に返さず、
「慌てても仕方ないでしょう」
「しかし・・・」
今、邪馬台国、周辺のクニグニは危機に晒されている。それを思うと、二人は居ても立っても居られない。
采乎は首を振る。
「休んだおかげで、ここまで回復したのですよ」
二人は背振山を前にした自分達の姿を思い出す。
采乎は続ける。
「まず、あなた方の身体があってのものです。心が急いても身体が伴わなければ、かえって状況は悪くなります」
一本気で直情的な采乎にしては、珍しく二人を諭すように言う。
彼女は自分が落ち着いて冷静でいられる時は、聡いようだ。
「でも、急がないと」
彌眞は食い下がると、采乎は同調し頷く。
「確かに、急がないといけません。でも、その前に腹ごしらぇをしてからでも遅くありません。どうせ、一日半も経っているのですから」
采乎は豪快に笑った。
「お腹が落ち着けば、きっとうまくいきます」
なんだかうまく言いくるめられたと思った二人だったが、お互い顔を見合わせると、采乎のいう事を聞くことにした。
とりあえず一理はあるし、ごねると彼女が怒り出すというのもあるので、ありがたく食事をいただくことにした。
鳥のさえずりが心地よく響く中、しばし食事をとる。
のち三人は余波達を追うべく背振山へと登った。




