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冷たい雨がぽつぽつと上空から落ちてくる。
余波は恨めしそうに天を見上げる。
(くそっ、さっきは、あんなに晴れていたのに)
「よろしかったのでしょうか」
年長者が恐る恐る別れた彌眞達のことを尋ねる。
余波は思い出すと、顔を紅潮させ、
「知らぬわ!あんな奴ら」
「しかし・・・」
「野垂れ死ねばいいのだ!」
憎々し気に空を睨み続け、吐き捨てるように言い放つ。
雨が急激に激しさを増して降る。
次第に白い薄靄の霧が辺りに立ち込めて視界を奪っていく。
「くそ、お前が思い出させるからだ」
甚だ見当違いの怒りを年長者にぶつけ睨みつける。
その間にも霧の濃さは増すばかりだった。
「なんとかせい!」
「・・・なんとかせいと言われましても」
年長者は困った顔をして、二人を見る。
男達は一応に首を振る。
「もう、よいお前」
余波は一人の男を指さす。
差された男は戸惑い、隣の男を見る。
隣の男は大きく首を振り、お前だと指を差す。
差された男は、渋々、自分を指さす。
余波はそれに頷くと、男は情けない顔を見せる。
「そうだ、お前だ」
余波は視界の先に立ちはだかる霧を、顎で指し示す。
「お前、先に行け」
「えっ」
言われた男は仰天した。
全く視界が遮られた雨霧の中を歩けと言うのだ。
数歩先の視界も見えない恐怖に男は、しばし立ち尽くす。
哀れに思った年長者が、余波に進言する。
「余波様、一旦、霧が晴れるまで休まれてはいかがでしょうか」
「休む?」
「はい」
余波は霧に満ちた空気を一杯に吸い込むと、
「そんなことが出来るか!もう我らには猶予がないのだぞ。こうしている間に邪馬台国に戦火は及んでいるかも知れない・・・それに休んでいる、あいつ等に先を越されるなどあってはならんのだ」
後半の本音が余波のすべてだと分かっている男達は、あきらめ閉口する。
「分かったらいけ!」
余波が叫ぶと、一人の男が溜息を吐き、憮然とした表情で先頭を進みだす。
雨は激しさを増し、ぬかるむ地面に足を取られながら、山を登る。
余波達も後に続いた。
だが、余波はぬかるみに足をすべらせ、転んでしまう。
泥まみれになって立ちあがり、歩きだすが、余波は内心休めばよかったと後悔しはじめていた。




