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ついに堪忍袋の緒が切れた采乎は、余波のその腕を掴むと、手首を捻り押し倒した。
もんどり打って倒れる余波、唖然と見つめる男達に、
「いい加減にしなさい」
と強い口調で言い放つ。
しばし呆然となっていた余波だが、じきに怒りが込み上げてくる。
「何をするのだ」
「あなたが全く聞き訳のないからよ」
采乎は今までの鬱憤を晴らすかのように言うと、余波を睨みつける。
彼女の射すような視線に余波はたじろぐが、やがて高慢さと怒りが爆発する。
「もう、我慢ならん!」
「それは、こっちが言いたい言葉だわ」
間髪入れずに言う采乎に余波は言葉を失う。彼女は続けた。
「そんなに先へ行きたいなら一人で行けばいいでしょう。元々、あなたの試練なのだから、あなた自身が解決すべきよ」
「うぐぐぐぐ」
歯軋りをして涙をこらえる余波の姿があった。
采乎は少し言い過ぎたかと思い、
「ごめんなさい言い過ぎたわ・・・」
「うるさい!」
采乎が口を開け、次の言葉を言おうとしたが、
「うるさい!」
余波は遮って、同じ言葉を叫ぶ。
「この私が何も出来ないかと思うか!ふん、足手まといのお前等なぞ、ここで捨てていってやるわ」
余波は采乎たちに背を向ける。
「後悔するなよ」
捨て台詞を吐き、彼は山へと走って行く。
慌てて男達三人は余波を追いかける。
采乎は振り出しに戻った余波との関係に、自分の短期さを嘆き溜息を吐く。
山を見れば、頂に次第に真っ黒な雲がたちこめており、彼女は暗澹たる気持ちとなった。
彌眞、十六夜に目を移すと、先程までの喧騒も気づかず眠り続けている。




