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「先程は失礼しました」
余波の母は丁寧に頭をさげて詫びる。
先程の波乱が嘘のように静まり返った部屋に三人と母はいる。
が、余波の姿はない。
彌眞は差しさわりがあるかと思いつつも、
「・・・王・・・余波殿は?」
王である余波はこの席にいてしかるべきである。
母は自嘲気味に笑う。
「余波は・・・王はとても話し合いができる状態にはありません」
「・・・・・・」
苦し気に答える母に、彌眞は察し無言のまま頷いた。
母は大きな溜息をつき、
「あなた方は卑弥呼様の予言により、遣わされた使者なのですね」
彌眞と十六夜は頷き、采乎は首を振って否定する。
母は訝し気に采乎を見るが、事情があるのだろうと解釈しあえて触れなかった。
それから、改めて挨拶をして各々が名を言い、これまでの旅の経緯を母に説明する。
「そうでしたか」
複雑な顔をして、母はまた溜息をついた。
「しかし、あなた方が羨ましい」
「えっ」
驚く十六夜。
母は弱弱しく笑うと、
「息子余波にもその旅に同行させたかった。そうすれば逞しく成長し、前王に近づけたかもしれない」
母の言葉にみんなは同意することは出来なかった。
これまでの道のりを余波と一緒に旅することを想像したら、そら恐ろしく、しばし言葉を失う三人だった。
母はそれを察し、
「でも余波には、前王から受け継がれた素晴らしい面もあるのです」
と、みんなに言い聞かせる。
が、ついさっきの彼の痴態を目の当たりにした三人には、にわかに信じ難かった。
采乎は目をしばたかせる。
母も無理なき事と頷く。




